2010年12月27日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
指定管理者制度の問題点
「指定管理者制度」が各地の公共サービスに導入されています。営利企業に委ねるために、住民との間でさまざまな矛盾を広げています。東京都足立区の図書館と名古屋市の市立病院の事例を共産党議員がリポートします。
車修理業者が図書館運営!?
東京・足立
足立区では2002年に「構造改革戦略」が策定され、これにもとづいて指定管理者制度、市場化テストなど事業の民営化を推進してきました。
児童サービス 会社「やるな」
区立図書館でも2008年から同制度が導入され、09年3月に花畑図書館で受託業者によって館長が解雇されるという事件がおきました。館長は、受託業者のグランディオサービスが雇用契約を更新せずに雇い止めしたのは不当として、地位確認を求める訴えを東京地裁に起こしました。
この裁判は、指定管理者制度の問題点を浮き彫りにしました。
制度導入後、館長は区への提案書どおり、学校に対する出張読み聞かせ、読書普及活動など「児童サービス」を推進しました。
ところが、会社側は館長に対して「児童サービスは図書館の業務ではないので、やらなくてよい」と指示。館長が「児童サービスは図書館の業務だ」と主張すると、会社側は「それなら残業時間をゼロにせよ」と命じました。館長はやむなく残業を「ゼロ」にし、「サービス残業」としましたが、1年で雇い止めとなりました。会社は「児童サービス」が基本的な図書館業務であることさえ理解していませんでした。
運営費削って利益のみ追求
もともと同社は自動車修理業者であり、会社には司書資格を持つ人間は皆無でした。経営者は、委託経費でいかに利益をあげるかを追求しました。
裁判で会社側の姿勢があらわとなり、区民の批判が高まるなか、急転直下、元館長の主張にそった形で今年5月に和解しました。
図書館法によって公共図書館のサービスには「無料原則」があります。収益事業を展開して利益を生み出すことは困難です。
営利を目的とする株式会社の同社は、図書館の運営費、人件費を大きく削りました。区直営時より運営費で2億円、人件費で1億2千万円削減しました。
花畑図書館では、指定管理者制度導入前の平成19年(07年)度と比較して、事務室従事者は15%減、カウンター従事者は30%減となっています。契約社員(司書)の報酬は、直営時の非常勤司書と比べ時間給にして40%も減っています。
区民サービス低下と大量の官製ワーキングプアを生み出す指定管理者制度は見直すべきです。(針谷みきお足立区議)
病院に導入 分娩中止
名古屋
名古屋市に五つある市立病院の一つ緑市民病院(緑区・305床)に指定管理者制度が導入されました。
河村市長推進 自公民が賛成
医師不足により病床稼働率が3年連続で7割を切っていた2009年9月、市の諮問機関「市立病院のあり方を考える有識者会議」が「指定管理者制度導入」を答申し、河村たかし市長が「救急・周産期・小児以外はできる限り民間に」と述べて急展開しました。
日本共産党が患者や住民にアンケートをとったところ「公立のまま残して」「市民病院だから安心」との声が寄せられました。
しかし、市議会は、今年2月、民主・自民・公明各党などの賛成で指定管理者制度導入を決めました。
こうした動きに地元住民らはたちあがり、町内会長らの呼びかけで6月に「緑市民病院のより良い医療を願う会」が発足。区医師会長の山本紘靖氏も、開業医と連携する2次救急(入院治療を必要とする重症患者に対応する機関)や災害医療活動の役割を市直営で果たすべきだと主張しています。
市の指定管理者の応募要項は、現在の医療機能を維持させることが原則でした。しかし応募は医療法人1社だけ。しかも「条件に沿った医師・看護師の確保が極めて困難」といって9月に辞退しました。
反撃する住民 署名活動展開
市は、何が何でも指定管理者制度にと、条件を引き下げて再募集。すると前回辞退した法人が再応募・選定され、分娩(ぶんべん)なし、305床から200床へ削減という、医療規模が大幅に縮小する事態になっています。
「人口(23万人)の多い区で産科がないのは困る」「地域の病院として充実を」との声に「願う会」は、指定管理者制度導入の凍結・市直営堅持の署名運動を始めています。市立病院労組も支援者とともに今月8日、病院前で抗議の座り込みを実施しました。
不足する医師・看護師の補充もふくめ、制度導入撤回にむけて、「願う会」と連帯し、さはしあこ市議候補、党支部とともにがんばっています。(かとう典子名古屋市議・県議予定候補)
人件費削りサービス低下
弁護士の尾林芳匡さんに聞く
「指定管理者制度」など、地方自治について各地で講演している尾林芳匡(よしまさ)弁護士に聞きました。
「公の施設」とは、「住民の福祉を増進する目的」で利用する施設です。地方自治体は、正当な理由なく住民の利用を拒めず、利用について「不当な差別的取扱い」が禁止され、管理の手続きを定めています(地方自治法244条〜)。
管理はかつて、公的団体に限定されていましたが、経済界が規制緩和を求め、2003年の法改正で一般企業やNPOにも管理者が開放されました。経済界は「2兆円市場」「設備投資なしで儲(もう)けられる」などと歓迎しました。
09年10月の総務省による調査では、全国約7万の公の施設に「指定管理者」が指定されています。株式会社が増え、問題があって指定を取り消される事例も多数あります。
コストが下げられると言われますが、民間事業者の利益の確保が必要となり、物的経費はほとんど減らずに人件費が大きく下げられ、担い手が非正規におきかえられています。
このためサービスの低下の例も相次ぎ、収益は大都市の企業の本社に吸い上げられ、「官製ワーキングプア」が増えるという構図がしばしばみられます。
保育・福祉・医療・教育など、はたらき手の質が重要な分野の施設については、指定管理者制度を導入すべきではありません。社会福祉協議会、図書館協会、天文教育団体などが批判の声をあげています。
また導入がやむを得ない場合でも、地方自治体の権限を活用して、地域に経済効果がおよぶよう区域内の事業者を指定したり、管理者の情報公開などを通じ実際のはたらき手の雇用の安定や労働条件の確保をはかるなどの工夫が必要です。