2010年12月20日(月)「しんぶん赤旗」
列島だより
地域壊す 工場撤退
セイコーエプソンが下請切り
長野・安曇野
内部留保3060億円あるのに
大企業が業績を回復しながら工場閉鎖、撤退や人員削減の動きを各地でみせています。これらが強行されると、雇用の減少や関連会社、下請けの切り捨てなど地域経済への影響は計り知れません。情報機器メーカー大手企業が取引停止をいいだして大問題になっている長野県安曇野(あづみの)市からのリポートです。
斉京信一さんのリポート
|
「許すな!セイコーエプソンの下請切り、守ろう!安曇精工と南安精工の労働者の雇用『大企業の横暴から下請中小企業と労働者、地域経済を守る安曇野集会』」が5日の夕方、長野県安曇野市堀金総合体育館で開かれました。主催したのは、私たち全日本金属情報機器労働組合(JMIU)長野地方本部と南安地区労働組合連合会です。県内と全国各地から450人がかけつけてくれました。
今春、安曇精工と南安精工など「セイコーエプソン協力工場」3社に激震が走りました。情報関連機器メーカーのセイコーエプソン(本社・長野県諏訪市)が、三十数年継続してきた取引の停止を通告してきたからです。いずれの企業もセイコーエプソン時計関連の仕事が売り上げの大半を占めており、発注停止の強行で従業員全員解雇、工場閉鎖の危機に直面しています。
1社は閉鎖
|
労働者は「これからの家族との生活は大丈夫か? 住宅ローンは払っていけるのか?」など不安を訴えます。
発注停止は、3社合わせて約200人もの雇用、市税収入と地域経済に大きな打撃を与えます。すでに1社は、3月末に工場閉鎖、従業員全員解雇に追い込まれました。
疲弊した地域経済をさらに困難にします。2009年の長野県工業統計では、安曇野市の製造品出荷額は6217億円と前年に続き市町村別のトップでしたが、出荷額は23・4%も減少しています。事業所数32所減、従業員数は2468人減少しています。
セイコーエプソンは、発注停止の理由として世界市場の縮小、売り上げ減などをあげています。しかし同社は、資本金532億円、連結売り上げ9853億円、グループ会社106社を擁する県内トップの大企業です。内部留保額は3060億円(2010年3月期決算)に達します。
十二分な体力のある大企業が、下請け企業の息の根を止めてまで引き揚げる合理性はまったくありません。
悩んだ末に
大多数の労働者は悩み抜いた末、JMIU安曇精工支部・南安精工支部に結集し、団結して雇用を守る道を切り開く決意を固め合いました。
話し合いを拒否しているセイコーエプソンの本社前で、早朝宣伝要請行動を繰り返しています。
下請け企業の経営者には、取引停止というセイコーエプソンの不当な要求をきっぱり拒否し、従業員とともに経営の存続、雇用の確保をめざしあらゆる手を尽くすことを求めています。
自治労長野県本部安曇野市職員労働組合、JMIU安曇精工支部などが出した「大企業による下請企業に対する発注停止に関する陳情書」は、6月の安曇野市議会で採択され、意見書が長野県知事や中小企業庁長官に送達されました。
「取引を停止し、または大幅に取引を減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し」と定めた下請中小企業振興法に違反するとした私たちの申告に対し、経済産業省・中小企業庁は、10月、セイコーエプソンと下請け企業2社はよく話し合って解決するよう指導しています。
私たちは、セイコーエプソンが社会的責任を果たすよう取り組みを強めていきます。
(さいきょう・しんいち 全日本金属情報機器労働組合=JMIU=長野地方本部執行委員長)
大企業は社会的責任果たせ
別表は今年1月から報道された主な大企業の工場閉鎖(計画含む)、縮小計画です。日本共産党の穀田恵二衆院議員が先の国会で明らかにし、菅内閣の政策をただしています。
阪神地方では、神戸市で105年も続く三菱重工神戸造船所の撤退が明らかにされました。従業員、下請けあわせて1000人以上の雇用が失われようとし、「雇用を守れ」のたたかいが起こっています。
兵庫県尼崎市の「森永製菓塚口工場」は2013年以降の閉鎖を打ち出しました。「正社員200人は群馬県高崎市への配置転換で雇用は維持するが、(地元の人が多い)パートさん100人は連れて行けないと言っている。まだ一切未定話」(尼崎市産業立地課)といいます。遠隔地の北関東にどれだけ移籍できるかは不明です。
東芝機器(本社・群馬県前橋市)は関連会社とともに11年3月で撤退・清算する計画です。配転、転籍を余儀なくされる従業員は250人。「東芝グループの中で再就職の世話をすると言っている」(前橋市工業課)と楽観的ですが、系列企業のほとんどが県外です。
日本共産党の酒井ひろあき県議候補は「市は東芝機器を誘致したのに、危機感を持っていません。社会的責任を果たさせるべきです」と語ります。
穀田議員が衆院予算委員会(11月10日)で大企業の工場閉鎖・縮小問題を取り上げたのに対して鈴木克昌総務副大臣は、リーマン・ショック前の2009年9月と今年9月を比べて就業者全体で84万人、製造業で76万人が減少していることを明らかにしました。
穀田議員は、リーマン・ショック前に戻る高収益と報じられた大企業の9月決算の例も示しながら「大企業の側に雇う力がないかと言えば、そんなことはない」と指摘。「大企業の工場閉鎖、撤退に対して、雇用と地域経済を守らせるルール、規制が必要だ」と迫りました。
|