2010年12月20日(月)「しんぶん赤旗」

ゆうPRESS

急増 若者ホームレス


 ホームレスに仕事を提供し自立を応援する事業に取り組むNPO法人ビッグイシュー基金が『若者ホームレス白書』をまとめました。20代、30代のホームレス50人からの聞き取り調査です。大半は、ネットカフェなど終夜営業する店舗を宿にして大都市の師走の街に漂流する「若者ホームレス」。その実像は…。(菅野尚夫、栗原千鶴)


社会に出る前に「格差」

 ビッグイシュー基金が『白書』をまとめるきっかけとなったのは、2007年の3月の出来事でした。

 佐野章二理事長は前書きで「ホームレスしか売れない雑誌『ビッグイシュー日本』を売りたいとやってきた13人のうち7人が20代、30代の人。若いホームレスの出現は衝撃的でした」と記しています。08年7月の東京の販売員の平均年齢は56歳。10年7月では45歳となり、11歳も若くなりました。「ホームレスの急激な若年化を日本社会の存亡、その根幹にかかわる問題」と考えたといいます。

 調査した50人は全て男性。平均年齢32・3歳、7割近くが30代です。路上にいた期間は半数以上が6カ月未満と比較的短く、仕事が見つかれば路上生活から抜け出しています。

 路上生活を余儀なくされた理由として、退職、派遣切り、倒産など7割が仕事に関係しています。「職を失うと同時に家を失うというケースだけでなく、リストラされた末、家賃を払えず、路上に出て行かざるを得ないケースもでてきている」と分析しています。

 また、半数以上が経済的に不安定な家庭に育ったと答え、学歴も相対的には低いとしています。「(高校中退含む)中卒の割合が高い。中卒で仕事に就くことは容易でないことからも、社会人になるスタート時点において、不利な状況にあったということができる」といいます。また大卒者も、50人のうち2人いました。

 5回以上転職した経験がある人が半数を占め「製造業派遣など、不安定就労を繰り返していくケースが大半である。その結果、仕事のスキル(技術)を身につけることができない」とみています。

“路上年越し”不安募る

 若者なのに、つやがない顔。栄養失調なのか顔の皮膚はカサカサ。東京・上野公園の毎週土曜日に行われるホームレスのための炊き出しに並ぶ宮下和樹さん(31)=仮名=に会ったのは12月の初旬のことでした。

 宮下さんが上野公園かいわいで路上生活を始めたのは9月から。「建築現場の仕事がなくなり寝泊まりしていた飯(はん)場(ば)を出た」ためです。「今年は『年越し派遣村』はないのですか」。路上で年を越す不安が募ります。

 三重県伊勢市出身の宮下さんは、定時制の工業高校を中退しました。「残業が夜8時を過ぎる時もあって、学業と仕事を両立させることが難しかった」といいます。

 20代になり、両親の離婚を機会に大阪へ出ました。「電子部品の工場や警備員の仕事などに就いたものの正社員にはなれず、不安定な仕事ばかりだった」

 4年前「東京なら仕事があるだろう」と上京します。見つかったのは建築現場で働く日雇いの一般建築作業員。「片付けや清掃などを主にやらされましたが、いろいろな職種の手伝いをするため、建築業のすべてに精通していないとだめ。段取りが悪いと工程に影響するので、よく怒鳴られました」

 給料は月15万円とのふれ込みでしたが、寮費や食費代などを差し引かれ手元には残りません。蓄えがないまま「次の仕事はない」と飯場を追われました。

 宮下さんは5人兄弟の長男。「昨年、父親が亡くなりましたが葬式にもいっていない。帰る家はありません」


「生存させる」哲学を

全国青年司法書士協議会常任幹事 井上尚人さん

 白書を見て、昨今、感じていたことが統計として出てきていることに驚きました。

 私自身も静岡県三島市近辺で公園や地下道などにいるホームレスを訪ね支援する活動をしていますが、20代、30代と思われる人たちが多くなったと感じていました。一方、若いホームレスは、マンガ喫茶やサウナなどの終夜営業する店舗にいることも多く、目に見えてこない部分があります。

 白書によると、EU(欧州連合)では、ホームレスの定義として路上生活者だけではなく、知人の家や安い宿に泊まり続けている人、福祉施設に滞在している人など、不安定な居住にある人々も指すと指摘しています。日本でも目に見える「路上生活者」への支援とあわせ、ホームレスになる前の段階で食い止める国の努力や支援が求められます。

 一方で、すぐにできる対策も必要です。

 例えば、県営や市営の住宅を積極的に提供する、生活保護を確実に適用するなど、行政が取り組むべきことはたくさんあります。また、地域の夜回りや公共施設の職員など、行政が直接的に雇用を創出する施策が必要ではないでしょうか。「市民の生存のためには赤字になってもお金をかける」という哲学に行政は自信を持ってもらいたいと思います。

グラフ:転職回数
グラフ:最終学歴
グラフ:路上にいた期間

おなやみHunter

上司がつらく当たります

  従業員50人ほどの衣料品会社で経理事務の仕事に就いて2年になります。給与や仕事内容には満足していますが、上司が何かとつらく当たります。同僚の失敗まで私のせいにされて叱られます。最近は、朝出勤しようとすると気持ちが重くなります。どうしたらよいか悩んでいます。

 (27歳女性)

まず相談。抱え込まないで 

  毎日職場で顔を会わせる上司とうまくいかないのは、つらいことです。

 失敗を叱るのはあなたに期待しているからと考えることもできますが、他人の失敗のことで叱られる筋合いはありませんよね。

 なんとかその上司の思いこみを改めてもらうよう、また厳しい対応のために、つらい思いをしていることを伝えることはできませんか。職場の同僚や、友人や家族などに相談することはできないでしょうか。

 誰かに話を聞いてもらうことで、あなたの重い気持ちが軽くなったり、その上司の見方に立って考えてみたり、何か解決策が見つかるかもしれません。1人で抱え込まないことがなにより大事です。

 また、上司の叱責が、あなたの人格を否定し、あなたの職場環境を悪化させる「いじめ」である場合には、絶対に許されるものではありません。使用者には、労働者が人格を損なわれることなく働きやすい職場環境を保つ「職場環境整備義務」があります(労働契約法5条等)。職場のいじめは、職場内の環境を悪化させる雇用管理上の問題であり、対策を怠った会社の法的責任を追及できる場合があります。職場の担当者に相談して上司の行為をやめさせるように要求してください。

 労働組合や労働相談情報センターなどにも相談してみましょう。


弁護士 岸 松江さん

 東京弁護士会所属、東京法律事務所所属。日本弁護士連合会両性の平等に関する委員会委員。好きな言葉は「真実の力」。





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