2010年12月18日(土)「しんぶん赤旗」
「命かじり」の思い抑えられぬ
自民との同化示した首相訪沖
菅直人首相が17日、沖縄県の仲井真弘多知事と行った会談は、米軍普天間基地問題で民主党政権が自民党の路線に完全に同化したことを示すものとなりました。
首相が同基地の名護市辺野古への「移設」推進の理由に挙げたのは、「普天間基地よりも危険性が相当、削減されるのでベター」だというものでした。
これは1996年のSACO合意以降、自民党政権が基地押し付けの理由としてきた主張そのものです。「ベター」であるならなぜ、今年4月の県民大会に9万人が参加したように、「県内移設」反対が県民総意となるのか。仲井真知事に「県外移設」へと劇的に態度を変えさせた県民の意志の力を何だと考えているのか。説明がつかない理屈です。
これは事実とも違います。米軍は普天間基地のCH46ヘリに代えて、新基地にはオスプレイを配備することを計画しています。オスプレイはこれまで墜落事故を繰り返し、「未亡人製造機」と呼ばれてきた代物なのです。
アメとムチ
自民党への同化は、首相が今回、「県内移設」押しつけの見返りに、沖縄の「経済振興策」をちらつかせる姿勢を鮮明にしたことにも表れています。
この“アメとムチ”“県民の心をカネで買う”というやり方も、自民党政権の常とう手段でした。
沖縄県民は、いまだに全国平均の2倍近い高失業率、全国最低の県民所得に苦しんでいます。それは、沖縄をズタズタにしている広大な米軍基地の存在と、沖縄の特性を無視した国の「経済振興策」が真の経済発展の妨げになってきたことが最大の原因です。基地に頼らない自立した沖縄経済を振興すること以外に、沖縄の発展はないのです。
破たん済みのやり方に固執して基地押し付けに狂奔する菅首相の姿。そこには、一片の誠実さもありません。
尊厳かけて
今回の菅首相の態度からは沖縄県民の苦しみの奥底を理解しているとは到底、思えません。
筆舌に尽くしがたい苛烈な地上戦を体験し、さらに戦後65年もの長きにわたり、さまざまな米軍犯罪と戦闘機のごう音に日々襲われ、人間の尊厳をこれでもかと傷つけられつづけてきた歴史…。
沖縄の人々は、昨年の総選挙で実現した「政権交代」で、この尊厳を取り戻す希望の灯を見たはずです。しかし、民主党の裏切りによって簡単に消し去られてしまいました。
「命(ぬち)どぅ宝」(命こそ宝)。これまで沖縄取材のたびに聞いた言葉です。11月の知事選の際には「命かじり」という言葉を、「県内移設」反対を正面に掲げて大健闘した伊波洋一氏の支持者から何度も聞きました。「命のかぎり頑張る」という意味だと知りました。
多くの県民がいま、平和で豊かな沖縄のため、宝である命を張ってでも頑張る決意で立ち上がっています。日米両政府がどのような策略をもってしても、人間の尊厳をかけたたたかいを抑えつけることはできません。(小泉大介)