2010年12月11日(土)「しんぶん赤旗」
主張
B型肝炎訴訟和解協議
年内解決へ政治決断すべきだ
国民の命に対して国はどういう責任を果たすのか。大詰めのB型肝炎訴訟和解協議で、菅直人内閣の姿勢が厳しく問われています。
仙谷由人官房長官も細川律夫厚労相も「年内に基本合意」と公言しています。しかし、国が示した和解の条件は、和解水準でも、発症していない持続感染者(キャリアー)を切り捨てる点でも、すべての被害者の救済を求める原告が到底受け入れることのできるものではありません。「年内の基本合意」へ、国は、加害責任を果たす決断を求められています。
不当な「切り捨て」
B型肝炎は、集団予防接種で注射器の回し打ちをすれば感染被害が起きることを十分承知しながら、少なくとも1948年から88年までの40年間、国が放置したことで発生、拡大しました。国の加害責任は最高裁の確定判決でも明確に認定されています。加害責任のあるものが被害者の被害回復をするのは当然です。損害賠償は国にとって義務といえるものです。
和解水準について、原告側は、少なくとも薬害肝炎救済法と同水準の賠償を求めました。国の案は、その半分程度でしかありません。「命の価値に差をもうけることは許せない」という原告の主張は当然です。対象者を定める要件として、母子手帳による確認を持ち出していることも道理はありません。
合意の最大の支障となっているのは、キャリアーへの一時金支給を認めていないことです。肝がんや肝硬変を発症していなくても、キャリアーはいつ発症するかという恐怖におびえ、さまざまな偏見や差別にも苦しみます。和解協議では、裁判所も、国に再考を促しているほどです。
国は、民法の損害賠償を求められる期間についての規定を持ち出しました。しかし、国の加害責任を重く受けとめるならば、どうやってキャリアーへの賠償を実現するかをこそ、国は考えるべきなのです。
結局、国の態度は、財政の都合で、一人でも多く被害者を切り捨て、賠償を「値切る」というものです。国は、国の和解案であれば2兆円、原告の案なら8兆円かかるとして、「国民負担をお願いしなければならない」(野田佳彦財務相)などといっています。しかし、この推計自体、非常識なほど過大なものだと批判されています。
そんな数字であおりたて、原告と国民を分断し、不当な和解条件をのませようとするやり方は、あまりに卑劣です。40年間もの予防接種で、国民のだれもが被害者になりうる危険にさらされていたことを考えれば、国が責任を果たし、損害賠償をすることに、国民の理解を得ることは可能です。
時間はない
国の正式な謝罪も、何の償いも受けることなく、無念のなか亡くなる原告も増えています。ほんとうに時間がありません。
原告・弁護団は、各政党の党首に面会を求め、年内に全員救済の基本合意を図るよう要請しました。日本共産党の志位和夫委員長は、原告らの運動が一人の切り捨ても、差別も格差も許さないとすすめられていることに敬意を表し、「あらゆる努力を図る」と協力を約束しました。いまこそ党派を超えて、早期の全面的解決を政府に迫り、政府がそれにこたえるのが、政治の責任です。
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