2010年12月9日(木)「しんぶん赤旗」
主張
都の漫画・アニメ規制
「取り締まり」で子ども守れぬ
石原慎太郎東京都知事が開会中の都議会に漫画やアニメの性的表現を規制する「青少年健全育成条例」一部改定案を提出しています。
すでに現行条例で図書規制がされているのに、新たに、刑罰法規に抵触する性行為、婚姻が禁止されている近親者間の性行為を「不当に賛美し又は誇張するように」描写・表現したと都が判断すれば規制対象とされることから、出版・創作活動を萎縮させます。インターネットや携帯電話の利用について家庭教育に行政が過度に介入する道を開きます。「子どもを守る」と称して、都の強権的な規制・介入を強める、無謀な改定案です。
いっそう広がる反対の声
同様の条例改定案は、今年2月の都議会に唐突に提出され、6月の議会で日本共産党、民主党、生活者ネットなどの反対で否決された経緯があります。著名な漫画作家や出版倫理協議会、日本ペンクラブ、日本弁護士連合会など広範な団体と多くの漫画読者、若者たちが反対の声をあげ、都政を動かしたものです。
今回提案の改定案は、石原知事自身が「実質的に前と同じ」と認めるもので、それをまたぞろ議会に持ち出すこと自体が「都民および関係者、都議会に対する挑戦」(日本共産党都議団)といわざるをえません。
しかも、今回の改定案は、規制の対象となる登場人物を「非実在青少年」から全年齢に拡大したうえ、創作物が描く性愛のあり方を法規で判定するなど、前回の案以上に規制対象を恣意(しい)的に拡大しかねない、重大な問題をはらんでいます。
都民が願う青少年の心身の健やかな成長の環境づくりのために、図書の販売やインターネット利用などに一定のルールが必要なことを否定する人はいません。しかし、その規制が表現の自由や、作品が読者に届くことを保障する出版の自由など、憲法に保障された基本的人権の制約に及ぶことは抑制的であるべきです。
石原知事は2005年の都の組織替えで、それまで生活文化局が教育的な立場から取り組んできた青少年行政を、権力的な取り締まりを基本とする治安対策と一体化して「青少年・治安対策本部」に移管させました。こうした石原都政の基本姿勢が、今回の条例改定案にもあらわれています。
改定案を「表現の自由を侵害する」と強く批判している漫画家のちばてつやさんは「石原知事は小説家としてどういう作品を書いてデビューしたかもご存じだと思う」という発言をしています。『太陽の季節』の奔放な性描写で物議を醸した石原氏は、「表現者」としても、表現の自由の侵害をやめるべきです。
撤回・廃案以外にない
「子どもを守る」ために、私たちおとな社会がほんとうにやらなければならないことは、青少年が性的自己決定能力や、情報を正しく活用する能力を身につけることができるようにする総合的施策を具体化することです。
そのためになにより必要なことは、社会的合意と自主的努力を尊重することです。前回を上回る各界からの強い反対の声を無視して、条例改定を強行しようとする都の姿勢はこれに逆行するものです。改定案は撤回・廃案以外にありません。
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