2010年12月4日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
55年前、当時の政府の調べでも130人の乳児の命が奪われた事件が起こっています。森永ヒ素ミルク事件です▼森永乳業は、粉ミルクをつくるさい、ヒ素入り化合物を使っていました。母乳の代わりに飲んだ子どもたちのうち、1万2千人以上がヒ素中毒にかかった、といいます。患者たちは、いまも障害に苦しんでいます▼生き物には猛毒のヒ素。ところが、ヒ素を食べて増殖する生物がみつかりました。アメリカ・カリフォルニア州の、塩分の濃い湖に生きている細菌です。生物の存在に欠かせない元素の一つ、リンの代わりに、ヒ素をとりいれ成長します▼生物についての常識をくつがえす発見です。わざわざ事前に発表を予告したのは、米航空宇宙局(NASA)でした。「宇宙生物学上の発見」と。人々が、「宇宙人か、地球外生命か」と胸おどらせ発表を待ったのも、無理ありません▼期待通りでなかったけれど、地球外の生命探しにはずみがつくでしょう。もはや地球上のとは違う命のしくみをもつ生命体がいてもおかしくない、というふうに。10年前にも、同様の話題がもちあがりました。アメリカ・イエローストーン国立公園の煮えたぎる熱水にすむ、虫のような生物が発見された時でした▼130年以上前のエンゲルスの考え方は、意味深長です。「われわれの公認の物理学・化学・生物学の全体は、もっぱら地球中心的であり、ただ地球用にだけできている」(『自然の弁証法』)。彼のまなざしも、宇宙に向けられていました。