2010年12月3日(金)「しんぶん赤旗」
介護職員 待遇改善のはずが…
「賃上げ4万円」どこへ?
厚労省が交付金廃止方針
国会で「経済の歯車を回すのは雇用。政府が先頭に立って雇用を増やす」(10月1日)と所信表明し、真っ先に「医療・介護」分野の雇用拡大をあげた菅直人首相。ところが、自公政権が始めた介護労働者への処遇改善交付金すら廃止する動きが浮上しています。
2009年10月からスタートした「介護職員処遇改善交付金」は、介護労働者1人当たり月1万5千円相当額を事業所に交付するもの。2年半の時限措置で、計約4千億円の費用全額を国費で負担します。
12年3月末で期限切れを迎えますが、その後の対応について厚生労働省は、「国の財政が厳しい」などの理由で同交付金廃止の方向を社会保障審議会の介護保険部会に提示。代わりに事業所に支払われる介護報酬を2%強アップする案を示しました。
介護報酬は介護サービスの代金として介護保険財政から支払われるもので、介護報酬を上げれば事業所収入は増えます。しかし介護報酬の1割を負担することになっている利用料が上がり、保険料も上昇します。国費を削減し、高齢者の利用料や保険料に肩代わりさせる形です。
公約違反
これは民主党の公約に反します。
介護労働者の働く環境は厳しく、離職による人材不足は社会問題となりました。自公政権ですら「処遇改善」を掲げ、事業所に支払われる介護報酬を09年4月から3%増額しました。しかし、もともと経営難の事業所に3%アップでは「焼け石に水」「職員の待遇改善に回らない」との批判が噴出。
民主党は共産党と一緒に当時の4野党で「介護労働者賃金引き上げ法案」を提出しました(09年3月)。介護保険料や利用料が上がらないよう国費で介護報酬をさらに7%(賃金月4万円分)上乗せする内容でした。民主党は昨年の総選挙のマニフェスト(政権公約)にも「介護労働者の賃金を月額4万円引き上げる」と明記していました。
公約や野党時代の言動に照らせば、民主党政権は国費を拡充してさらなる賃上げを図るのが当然です。
拡充切望
全労連ヘルパーネットの介護労働実態調査(10月に中間報告)では、介護労働者の平均年収は206万円。「よりよい仕事をするため」に必要と思うことのトップは「働き続けられる賃金・労働条件」で78%を占めました。処遇改善交付金については「恒久的な制度に」30%、「金額引き上げを」23%、「介護職以外にも拡大を」19%と、拡充が切望されています。
人員配置が少なく残業や夜勤など過大な負担が介護労働者にのしかかる現状は、「利用者の要望に応えられない」(22%)事態も招いています。
利用者の安全や安心を守るためにも、労働条件の抜本的な改善は急務です。財源は高齢者にさらなる利用料・保険料負担を課すのではなく、国費で確保するべきです。(杉本恒如)