2010年12月3日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
漫画家の水木しげるさんは、幼いころ、自分の名前をうまくいえなかったそうです。「げげる」みたいに発音していたらしい▼あだ名も、「げげ」とか「げげげのしげる」だった、といいます。のちに人気作家になって『墓場の鬼太郎』をアニメ作品にするさい、周りから「題が『墓場』では…」と心配する声があがりました。そこで浮かんだのが、「ゲゲゲ」です。「それでいこう」と、話がまとまります▼『ゲゲゲの鬼太郎』の誕生です。あだ名が生きました。というわけですから、「ゲゲゲの女房」には、二つの意味がふくまれるのでしょう。「『ゲゲゲの鬼太郎』の作者の妻」と「しげるの妻」です▼ことしの「ユーキャン新語・流行語大賞」(「現代用語の基礎知識」選)に、「ゲゲゲの〜」が選ばれました。受賞した人はもちろん、ドラマでも映画でも話題の『ゲゲゲの女房』を書いた武良布枝さんです▼経済の「高度成長」が始まったころ、二人三脚で貧しさとたたかいながら信頼のきずなを結び合ってゆく妻と夫の姿。『ゲゲゲの女房』は、いまの時代にも響く貧乏物語、愛情物語です。一方、新語・流行語の上位10の中には「無縁社会」も選ばれました。人々が孤立し、孤独の闇に落ち込んでゆく社会の現実は、誰にとっても人ごとではありません▼「ゲゲゲの〜」の「の〜」は、人が人とつながっているしるしです。「私の家族」「私の愛する人」「私の仲間」…。流行語が、人間と社会の再生への道筋を考えさせる、2010年です。