2010年11月26日(金)「しんぶん赤旗」
生活の場に出かけて支援
こころの不調に悩む若者へ
都立松沢病院「わかば」の試み
こころの不調に悩む若者に早く適切な支援を届けたい―。東京都世田谷区にある都立松沢病院の一角に「wakaba ユースメンタルサポートセンター松沢」(「わかば」)が誕生して1年。若者の生活の場に出かけて支援する「アウトリーチ」という新しい試みにとりくんでいます。(西口友紀恵)
「わかば」は、精神的な不調に悩む若者を早期から積極的に支援する専門外来です。対象は15歳から25歳くらいまで。
高校生のひろし君(17)。数カ月前から外に出ると人に見られている気がして怖くなり、電車に乗れなくなりました。授業中も人の視線が気になり勉強も遅れがちで、ひきこもり状態に。不眠にも困っていました。母親が学校の先生に相談し、「わかば」を受診しました。
心理的サポート
「わかば」のスタッフは、兼務も含めて精神保健福祉士と看護師が2人ずつ、医師が3人。受診した結果、ひろし君は必要に応じて薬を服用し、心理的サポートを利用しながら復学を目指すことになりました。
精神保健福祉士の石倉習(しげ)子さんは、電車の中で人の視線が気になる点についてはゲームをする、目をつぶって音楽を聴くなど、自分で工夫できることを助言しました。
ひろし君は、ボランティアの付き添いを得て電車に乗る練習をし、石倉さんは毎日のように電話で状況を聞きながら支援。いまでは一人で乗って学校にもいっています。
青年期にこころの不調を体験することは決して珍しいことではありません。早期に適切な支援を利用できると、回復も早くなるといいます。
「わかば」では、精神科を受診することに抵抗があったり、外に出ることが怖くて来院できなかったりする場合、受診前でも自宅や学校の保健室、家の近くの喫茶店など本人が安心して話せる場所に相談員(精神保健福祉士または看護師)が出向き、困っていることを詳しく聞きます。必要な場合は不安なく受診できるよう支援します。
生活充実めざし
受診後も、相談員が訪ねることで治療の中断をかなり防ぐことができるといいます。
学校生活を援助するため教師と話し合うことや、希望の仕事を一緒にさがすなど生活全般にわたって支援します。不安を抱えがちな家族への支援も重視しています。
「病気を落ち着かせるだけでなく、充実した生活を送れるようにすることが私たちのゴールです」と石倉さんは言います。
しかし、現行の診療報酬制度では、受診前のアウトリーチには報酬が支払われず、経費は病院の持ち出しです。訪問は自転車でいける範囲に限定せざるを得ません。受診後のアウトリーチでも、学校に出向いての話し合いやハローワークへの同行支援などにも経済的な支えがないなど課題は少なくありません。
石倉さんは「こうしたとりくみを全国に広げていくには、何らかの形で受診前、受診後の生活支援が評価されるシステムが必要です」と話します。
アウトリーチ 精神医療・保健のとりくみが進んでいる英国では、多職種チームによる「当事者に届けるサービス」が地域に根を下ろしています。こころの不調には、多職種の専門家のかかわりが有効とされています。