2010年11月21日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「わたしの演奏を聴いてもらおうというより、曲のよさやすばらしさを少しでも伝えることができたら、と心がけて演奏しました」▼ジュネーブ国際音楽コンクールのピアノ部門で日本人初の優勝をはたした、萩原麻未さんの話です。萩原さんは、フランスの作曲家ラベルのピアノ協奏曲を弾き、万雷の拍手をあびました▼萩原さんが語るように、たしかにラベルのピアノ協奏曲には聴きどころが多い。1930年ごろの作品です。スペイン音楽やジャズの風味をとりいれた異国のかおり。20世紀音楽らしい鋭さ。心に染み入る、たゆたうような旋律…▼「ボレロ」の作曲で知られるラベル。本人は、「賞」との縁のうすい人でした。作曲家の登竜門、ローマ賞に5回も応募しますが、1等を受賞できずじまい。1920年のできごとは、事件でした。フランス最高の勲章とされるレジオン・ドヌールの授章を断ったのです。彼は、“これは見栄(みえ)”と友人に説明しています▼ローマ賞の体験から、「賞」に反感をもっていたのでしょう。しかし、見栄だけだったのでしょうか。彼は、第1次大戦中にフランスの音楽家たちが敵国ドイツの作品の演奏を禁止しようと提案したとき、賛同を拒んでいます。社会主義寄りの人だった、ともいいます。ナチス・ドイツから逃れてきた音楽家も助けました▼どうやらラベルは、独立心つよい反骨の持ち主だったようです。萩原さんの優勝を機会に、彼の作品だけでなく、「人」にも関心が集まるといいのですが。