2010年11月9日(火)「しんぶん赤旗」
主張
TPP協議開始
歴史的な誤りを撤回せよ
米国など農産物輸出大国を含む環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加問題について、菅直人政権が「協議を開始する」との基本方針を決めました。きょうの閣議で正式決定し、13、14日に横浜市で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で表明する予定です。
協議に入れば、農産物市場の完全自由化への用意を迫られます。政府方針は「国内の環境整備を早急に進める」としていることでも明らかなように、TPP参加に足を踏み出すものです。
欺まん的なやり方
日本は世界最大の食料輸入国であり、関税率は低水準です。例外なき関税撤廃が原則のTPPに参加すれば、唯一自給できるコメも輸入品に置き換わり、日本農業は壊滅的な打撃を受けます。食品関連や輸送など広範な業種で雇用が失われ、地域経済が崩壊します。
これほど重大な問題でありながら、菅政権は二重三重に欺まん的なやり方をとっています。
政府も民主党も、食料自給率を先進国最低水準の40%から引き上げるとしています。しかし、自由化によって、農水省試算によれば自給率は14%へと激減します。菅首相は自由化と農業再生を「両立」させるといいます。ところが、政府方針は「競争力向上や海外における需要拡大」というだけで、市場を開放しても持続的な農業が維持できる展望をまったく示せないでいます。
農業者には、民主党政権下で導入された戸別所得補償制度に期待もありました。農業の再生には、価格保障・所得補償が不可欠だからです。しかし、今回の政府方針で、この新制度も農業再生どころか、自由化への「環境整備」=地ならしにすぎなくなります。TPP参加の進め方についても、協議参加を「情報収集」と装うなど、議論を先送りさせています。
TPP参加は、農業破壊だけでなく、経済に不可欠なルールを一段と取り払い、国民生活を大きく変えるものです。
食の安全・安心も奪われます。日本はBSE(牛海綿状脳症)対策として、米国産牛肉の輸入を20カ月齢以下に制限していますが、TPPではこうした対策は維持できなくなります。
環境にも大きな悪影響をもたらすことは、水田農業の変化がトキの絶滅の一因だったことだけみても明らかです。食料は世界から買ってくればいいという自由化の論理は、地産地消が基本の温暖化対策にも逆行します。
金融や医療など多方面で、規制緩和や民営化に拍車がかかることになります。民営化路線が破たんし公的事業体として再生させる必要がある郵政は、逆に外国企業への開放を迫られるでしょう。
反対の世論強めて
TPP参加を「将来の雇用機会」のためとか、日本の取り組みは「遅れている」といった政府の主張は、輸出大企業の利益を最優先にしたまやかしです。国民生活に重大な影響をもたらす政策転換を、拙速に行おうとする菅政権の姿勢は許されません。
政府・民主党の欺まん的なやり方は、農業者や広範な市民の強い批判を回避しようとするものです。TPP参加という歴史的誤りを許さないために、反対の世論と運動をさらに強める必要があります。
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