2010年11月7日(日)「しんぶん赤旗」
主張
日米金融緩和
不毛な通貨安競争に歯止めを
日銀は5日の金融政策決定会合で、前回導入を決めた5兆円規模の基金による国債買い入れを週明けに開始すると決めました。
基金の買い取り対象には、これまで日銀が手を出さなかった投機的な資産(平均株価連動型の上場投資信託や不動産投資信託)が含まれます。その買い入れも順次進めていくとしています。
先月から復活させたゼロ金利政策とあわせて、日銀は異常な金融緩和をさらにエスカレートさせています。
「通貨の番人」というなら
白川方明日銀総裁は4日の講演で、投機的な資産の買い入れについて「中央銀行の政策において例を見ないもの」とのべています。損失が発生したら納税者の負担につながること、個別の産業・企業へのてこ入れにつながることなど大きな弊害も認めています。
短期金利は「ゼロ金利」で引き下げの余地がなくなっています。もっと金融緩和を進めようとすれば、通常の金融政策の枠組みを超えて、異常なやり方に踏み込んでいかざるを得ません。
しかし、大企業の手元には巨額の資金が滞留しています。企業の設備投資を左右する長期金利も歴史的な低水準となっています。日銀が銀行にじゃぶじゃぶ資金を供給しても大企業は借りようとせず、大銀行は中小企業に貸し渋りを続けています。金融緩和は景気回復の役に立つどころか、超低金利の資金が投機資金の供給源となって経済を混乱させています。
それに加えて、日銀の新たな金融緩和策は、これまでの一線を越えて日銀みずからが投機的な金融商品に手を出すところまで踏み込みます。「通貨の番人」である中央銀行として、手を染めてはならない“禁じ手”です。
金融政策決定会合は当初、15、16両日に予定していましたが、大幅に前倒しして4日から開催しました。3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に合わせての緊急措置だとされています。
FOMCは来年半ばまでに米国債6000億ドル(約48兆円)を買い取る大幅な追加緩和を決めました。米国の金融緩和によってドル安・円高が進み、それに対応するために日本もいっそうの金融緩和をという形になっています。
米国の金融緩和は、「投機資金を拡大して新興国経済を圧迫している」という指摘に加えて、米国経済にもインフレなど副作用が大きいと批判が強まっています。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、米国はドル安を容認し、貿易赤字を減らすために世界をドルで浸すことは「通貨安競争」とみなしていないのかと厳しく批判しています。
家計・内需主導に転換を
実体経済の回復には役に立たず、大きな副作用がある異常な金融緩和を競うのは、まさに「百害あって一利なし」です。
日本が円高から脱却するためには、一部の輸出大企業が労働者や中小企業に犠牲を転嫁してコスト競争力を強め、輸出を増やして円高を招くという「円高体質」を改める必要があります。
そのためにも、人間らしく働く雇用のルールや中小企業と大企業との公正な取引ルールをつくることによって「体質」を改善し、輸出頼みから家計・内需主導の経済に転換することが求められます。