2010年11月6日(土)「しんぶん赤旗」
生保 不払いの背景
人減らし、新商品対応できず
請求なければ保険金払わず
2005年に発覚した生命保険の不払い・支払いもれ問題で、背景に保険金支払い部門を軽視した生命保険会社のリストラがあることが業界関係者の証言でわかりました。この時期、生保各社は相次いで複雑な仕組みの保険商品を売り出す一方、支払い対応を怠ってきたことになります。(矢野昌弘)
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生命保険業界の不払いは大きな社会問題となり、08年7月に国内外の生保10社が金融庁の業務改善命令を受けました。01年から05年の不払いは生保37社で、約135万件総額973億円にのぼります。
不払いで目立つのは、手術や通院に対して給付金が払われる契約なのに契約者が気づかずに入院給付金や死亡保険金だけを請求したといったケースです。
本来、保険会社側が請求案内をすべきなのに案内せず、不払いとしていました。
業務が複雑化
ある生保の社員は「バブル崩壊による人減らし以前は、支払い可能性のあるものはすべて案内していた。それ以降は、請求案内は事務負担が大きくなり、請求がなければ保険金を払わないという『請求主義』がはびこった」といいます。
1990年代、生保各社が競うように開発したのが、通院や入院、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)、がんになった場合に給付金が出る特約つきの新商品です。
2001年からは、がん保険や医療保険などの「第三分野」商品の販売が国内の生保や損保業界にも解禁。国外の保険業界と競うように商品がさらに増加しました。
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その一方で進んだのが人減らしです。明治安田生命は合併準備段階の03年に内勤職員を約3000人削減するリストラを計画。住友生命も内勤職員を15%削減する計画を打ち出すなど、人件費圧縮に各社が走りました。
別の生保社員は「入院や手術給付金を上乗せしたため支払い業務が一気に複雑化した。それにシステムが追いつかず、全体の請求のうち人の目が追いついていたのは3割台だった。顧客への『迅速支払い』という聞こえがいいかけ声のもとで、もれなく払うという網羅性を放棄してしまった」と話します。
裏で政界工作
生保業界は、不払いが問題化すると、国会議員のパーティー券購入や接待攻勢といった「政界工作」で、きびしい処分を逃れようとした疑惑が指摘されています。
不払い問題が発覚した今も、ある社員は警鐘をならします。
「現場の支払い部門は、スキルのある正社員が減り、派遣社員が増えた。支払いについて判断できる人が減り、積み残しの仕事が増えるばかりだ。不払い問題で、業界が正しい教訓を引き出したとは思えない」