2010年11月5日(金)「しんぶん赤旗」
主張
幼保一体・新システム
子育て安心の願い託せるのか
民主党政権は、保育所と幼稚園をなくして「こども園」にすることなど、子育ての制度を全面的に変える「新システム」を検討しています。菅首相は臨時国会の所信表明で「幼保一体化を含む法案を来年の通常国会に提出する」と明言、国民に十分内容を知らせないまま、来年1月ごろまでに結論を出そうと具体化を急いでいます。
幼稚園も保育所もなくす?
その基本方向は、「子ども・子育て新システム検討会議」が6月に発表した「基本制度案要綱」にそったものです。目的には「すべての子どもへの良質な生育環境を保障」「出産・子育て・就労の希望がかなう社会」などをかかげています。もちろん深刻な待機児童解消や、だれもが安心して子育てできる支援の充実は国民の願いです。しかし本当に国民の願いや期待を託せるものなのでしょうか。
「新システム」が目玉の一つにしているのは、幼稚園と保育所の「垣根を取り払い」、親の就労と関係ない「こども園」への一本化です。それぞれ長い歴史と違う役割をもっており、施設の基準や職員配置も違います。強引に一本化すれば大混乱はまぬがれません。
施設やサービスの申し込みは利用者と事業者との直接契約とし、利用料は時間に応じて増える応益負担が検討されています。株式会社などの参入で「量的拡大」をはかるために、一定の基準を満たせば参入も撤退も自由、補助金も株式配当や他事業に利用できる指定制度を導入する方向です。
重大なのは、「新システム」では、親の就労等で「保育に欠ける」子どもへの市町村の責任がなくなることです。自公政権がすすめた公的保育制度崩しの総仕上げにほかなりません。これらは財界の「保育制度の抜本改革」「各種の規制の見直し」による営利企業の参入促進(経団連「成長戦略」)などの要求に応えるものです。
さらに「新システム」は、子ども手当から保育や学童までさまざまな子育て支援の制度と財源を一つにまとめたうえで、市町村が一括して交付金を受け取り、自由にメニューや内容を決められる制度をめざしています。保育所などの国の最低基準も廃止、自治体が「地域の実情に応じて」決めることも考えるとしていますが、地域格差が拡大し、今でも先進国最低の保育条件の後退を招きます。子どもの命と成長にかかわる最低基準はどこでも同じであるべきであり、乳幼児の豊かな保育・教育を保障する世界の流れからの逆行は許されません。
幼児教育の団体などが、「日本の子どもがどのような育ちをするべきかといった本質論に欠けている」と、拙速なすすめ方をきびしく批判しているのは当然です。地方議会でも「新システム」を批判し公的保育制度拡充を求める意見書採択の動きが起こっています。保育団体が取り組む署名運動も新たなひろがりをみせています。
問題点知らせて共同を
すべての子どもに豊かな保育、子育て支援を保障し、安心して子育てできる社会にするには、先進国最低の保育・教育への公的支出を引き上げ、国と自治体の責任で保育・教育、学童保育、子育て支援を抜本的に拡充することこそ必要です。「新システム」検討は中止すべきです。重大な内容を知らせ、切実な要求をかかげた共同を大きくひろげましょう。
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