2010年11月1日(月)「しんぶん赤旗」

異なる体制と文明の共存の時代へ

世界史の中で21世紀を考える

不破哲三社会科学研究所所長の講演から


 日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(日本AALA)創立55周年・バンドン会議55周年記念講演会(30日、都内)で、「世界の中で21世紀を考える」と題して講演した日本共産党の不破哲三・社会科学研究所所長。アジア・アフリカ・ラテンアメリカ(AALA)諸国の現在と未来に重点を置きながら、21世紀の世界の特徴と展望を多角的に語り明かしました。


世界史のモノサシで見ると

写真

(写真)講演する不破哲三社会科学研究所所長=10月30日

 不破氏がまず解明したのは資本主義の地位をめぐる世界史です。

 16世紀に世界の「片隅」で生まれた資本主義は、20世紀に入るころに全世界を植民地支配するところまで巨大化。AALA諸国の自立的な発展は強制的に中断されました。

 しかし、20世紀に世界構造の大変化が生じました。一方では社会主義をめざす流れ、他方では植民地体制を覆す民族独立の流れが発展し、「先進国」の特権的支配に終止符が打たれました。

 不破氏は500年間の世界史での力関係の逆転を、中国・アメリカ・ドイツ・日本の経済的地位の変動を追ったグラフ(2009年10月19日付「朝日」グローブ)を使って説明。「資本主義の世界制覇は1世紀も続きませんでした。21世紀には、発達した資本主義が世界の一部でしかなくなる時代に入りつつあるのです」と強調しました。

 不破氏は、この構造変化が指導的な大国の交代ではなく、国の大小の序列のない世界に向かう国際政治の大変動を示していると指摘。5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議で主役を演じたのは核保有大国ではなく、AALA諸国の外交官だったと紹介しました。

 「国の大小でも軍事力の大きさでもなく、核兵器廃絶という国際課題を追求する熱意とそれに取り組む外交力がものを言う新しい国際政治が、すでに姿を現しつつあるのです」

世界の新しい姿が浮かび上がってくる

 続いて不破氏が解明したのは、世界の変化の根底に、「発達した資本主義」をモデル扱いする見方を退けた、世界の新しい姿があるということです。不破氏はその国に資本主義の諸制度を植えつけるという立場での援助政策――「ワシントン・コンセンサス」の失敗を振り返りつつ、「それぞれの国、それぞれの社会が発展の進路を大胆に探求する時代に入りつつある」と指摘し、3グループに分けて世界の動きを特徴づけました。

発達した資本主義の危機

 第一は発達した資本主義のグループです。

 不破氏はこのグループが「21世紀に存在し続けられるのか、存在意義が問われる時代を迎えている」として、出口がみえない世界経済危機と、地球の「生命維持装置」を破壊する温暖化の危機をあげました。温暖化の危機は、まさに資本主義の利潤第一主義の産物です。この体制のままで、地球の危機を乗り切れる経済体制をつくれるのか、その根本が問われるところにきているのです。

社会主義をめざす国―未来社会の探求者として行動問われる

 第二は、社会主義をめざす中国・ベトナム・キューバのグループです。不破氏はその世界史的な地位について二つの角度から考えることを提起しました。

 一つは、これらの国が、マルクスの理論でいえば社会主義をめざす過渡期に属していることです。

 不破氏は、社会主義への過渡期はまだ誰も歩き通したことのない道で、不断の模索と探求が避けられず、「大きな誤りを犯せば道を踏み外す可能性さえ排除されてはいない」と指摘。先例として、内政では社会主義と無縁な人間抑圧社会、外交では領土と勢力圏の拡張主義に転向したソ連をあげました。

 「私人の関係を規制すべき道徳と正義の単純な法則を諸国民の交際の至高の原則として確立する」という、世界政治での社会主義の目標を示したマルクスの言葉も引き、こう語りました。

 「私たちは、今日の世界で社会主義をめざしている国ぐにが、多くの模索と探求を必要とする過渡期の諸課題に、社会主義の精神で取り組み、その一歩一歩を成功的に歩み続けること、ソ連で犯されたような致命的な誤りは絶対に再現させないことを願っています。私たちもこの国ぐにと、そのことに役立つような付き合い方をしたいと考えています」

 もう一つは、これらの国が過渡期にあるとはいえ、世界政治、世界経済の上で大きな比重と地位を占めており、その行動が世界の現在と将来に重大な影響力をもつことです。

 不破氏は、社会主義の社会が資本主義にとってかわる資格と能力をもつかどうかが、これらの国の行動を通じて試される時代が到来していると指摘。▽「人民が主人公」という社会主義の精神が内政で実現されているか▽マルクスが力説した国際的道義が対外政策に実現されているか▽核兵器廃絶や地球温暖化などの課題にどう対応しているか―などは、その国一国の評価にとどまらない意味をもつと述べました。

 「私は、社会主義という共通の目標・理念を持って活動している政党の一員として、社会主義をめざしている国ぐにが、経済の面でも、政治の面でも、国際道義の面でも、人類の未来社会の探求者にふさわしい優位性を発揮することを真剣に願っています」

AALA諸国の社会進歩の探求

 第三のグループは、AALA諸国です。

 不破氏は、この広大な地域が植民地支配を脱して独立国家の集団に変わった意義を強調しました。

 発達した資本主義の世界が深刻な危機に陥るなか、この諸国の一部に、国民生活向上に取り組む中から社会主義を問題にする新たな動きが出てきていることに触れ、「自分の国の条件にかなった道をきりひらく『模索と探求』が広く求められる時代になっています」と指摘。AALA諸国のさまざまな創意ある経験や失敗の総体が「21世紀における社会進歩の世界史の重要な一側面をなすでしょう」と語りました。

異なる社会体制、異なる諸文明の共存

 次に不破氏が言及した現代の特徴は、資本主義が全世界を支配した時代と違い、社会体制や文明的歴史の異なる国ぐにが同じ地球上で一つの世界を構成している点です。不破氏は、(1)異なる社会体制の間の共存(2)異なる価値観をもった文明の間の共存―という二つのルールの確立が大切だと述べました。

 異なる社会体制の共存では、1917年のロシア革命後、干渉戦争に失敗した資本主義諸国がジェノバ会議(22年1月)で「どの国民も、自分のために自分の好む制度を選択する権利をもつ」という重要な原則を決めました。しかしこの原則は長く忘れられ、第2次世界大戦後の世界経済体制は資本主義絶対の原則でつくられました。

 不破氏は、近年のG8(主要8カ国)からG20(主要20カ国・地域)への変化や、IMF、世界銀行などの機関構成の変化―中国や新興国の出資比率の引き上げ―は、異なる社会体制の共存の仕組みが必要になっていることの表れだと指摘し、新しい国際経済秩序を確立することの意義を強調しました。

 異なる文明の共存では、不破氏は日本共産党の党大会でイスラム国家の女性外交官に礼拝用の一室を提供したところ、喜ばれたことなど、イスラム諸国とのこの十数年来の野党外交の経験を紹介。(1)ごく一部にテロリズム勢力や原理主義的な排外主義が現れたからといって、それをその文明の特性とする見方を退ける(2)自分の国の制度が世界で「普遍的価値」を持つという思い込みを捨て、自分たちの価値観や制度を他国に押し付ける態度を捨てる―という2点が大切だと語りました。

 「それぞれの社会は社会進歩の道を独自の道筋、独自のテンポで進んでいきます。その全体が人類社会の歴史を形成します。そういう歴史的視野を持って異なる価値観を持った諸文明に接する必要があります。現代の世界で諸文明の対話と共存、接近の関係を確立するためには、社会進歩に対する大局的な見方が必要です」

世界が直面する二つの大問題―核兵器廃絶と地球温暖化対策

 最後に不破氏は、世界の「二つの緊急問題」を提起しました。

 一つは核兵器の廃絶です。

 不破氏はAALA諸国が核兵器廃絶の旗を確固として掲げてきたことの意義を強調。核兵器廃絶条約締結をめざす国際交渉のプロセスに核保有諸国を踏み出させる上で、日本の平和・民主運動とAALA諸国との連帯の重要性が強まっていると述べました。

 もう一つは地球温暖化対策です。

 不破氏は、20世紀100年間の二酸化炭素排出量を1人あたりに換算すると、発達した資本主義国が三百数十年分も排出したのに対し、AALA諸国は30年分程度にすぎないとの数字もあげ、発達した資本主義国の責任を指摘。途上国の経済的発展の権利を尊重する国際協定は正当な民主主義の道理だと述べました。

 同時に、6倍近い人口のAALA諸国が発達した資本主義国と同じ道をとったら、地球環境に破壊的な影響を及ぼすと述べ、環境と両立できる経済発展の新しい軌道を全世界の協力で実現することが21世紀の大きな国際課題だと語りました。

 不破氏は、日本のAALA運動の発展を願うとともに、参加した各国大使館の方がたへのお礼の言葉を述べ、大きな拍手のなかで講演を結びました。





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