2010年11月1日(月)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
1944年10月末、アンネ・フランクはアウシュビッツからベルゲン・ベルゼン収容所へ移されました。『アンネの日記』の作者、15歳のアンネ最期の地です▼彼女の死から34年、父オットーがベルゲン・ベルゼンを訪れる。やがて、少女のままのアンネの幻影が現れる。札幌の劇団「座・れら」演じる、「空の記憶」の始まりです。先日、東京公演をみました▼劇は、幸せな再会からしだいに核心へ。アンネは、収容所のありさまをつづった日記を読み始めます。そこは地獄。「アウシュビッツでは殺されるまでは生きていられたわ。ここではほったらかし。生きながら死んでいく」▼なぜ? 「せっかく生まれてきたのに、まだ人生が始まったばかりなのに」。助けが来ると信じ、あきらめなかったけれど助けはなかった。「『アンネの日記』は、あれで終わりではないんだって」▼捕まるまでの『アンネの日記』で、“人間の本性は善”と書き、「人類のために働いてみせます」と誓っていたアンネ。「空の記憶」は、彼女の無念の思いをぶつけます。“私を忘れないで”と▼『日記』が最もよく読まれる国、日本。劇中、父が日本への旅に誘い、アンネは拒む。「にっくきナチスと手を結んだ国よ!」。戦争も武器も放棄した憲法を定めたと聞かされても、なお日本を信じない。が、死後の彼女にノートとペンを贈ったのが日本人と知り、考え直す…。劇の作者・浜祥子さんは、ベルゲン・ベルゼンを訪ねノートとペンを置いてきたのでした。