2010年10月31日(日)「しんぶん赤旗」
主張
COP10
合意を生かし今度こそ前進を
名古屋市で開かれていた国連生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が、遺伝資源を利用して得た利益の配分ルールを定めた「名古屋議定書」と、生物多様性の損失を抑える2020年までの目標を採択しました。
法的拘束力ある議定書づくりは、8年越しの協議の結果参加国が土壇場で歩み寄り、193カ国・地域の全会一致で合意が採択されました。この国際協力を、生物多様性の実効ある保全とともに、難航する地球温暖化対策の交渉にも生かしたいものです。
利益の公正配分へ
動植物や微生物といった生物遺伝資源の利用と利益配分をめぐる交渉は、決裂の可能性をはらみながらぎりぎりまで行われました。途上国はこの問題に強い関心を寄せ、その成り行きが生態系保全の目標採択を含む会議全体の成否も左右しました。
新ルールは、資源利用のあり方を略奪から公正な利益配分へ、大きく転換させようとするものです。企業利益を擁護する先進国との対立のなか、圧倒的多数を占める途上国の発言力が浮き彫りになっています。
議定書は、最終日に日本が提案した議長案にもとづいています。新ルールの適用を議定書発効前にさかのぼらせることや、遺伝資源利用の情報開示などで、途上国の要求を退けており、資源を利用して開発する先進国・企業寄りとの評価を残しました。
議長案は途上国の同意を引き出すため、資金援助を盛り込みましたが、具体的なあり方はあいまいです。利益配分の詳細でも、原産国の法令の順守を監視する機関などでも、同様の問題が残されています。ルールを決めただけでなく、先進国がその責任を確実に果たすことが不可欠です。
生態系を保全する目標は、「多様性の損失を止めるために、実効的かつ緊急の行動を起こす」としました。しかし、保護地域の目標は陸域で17%、海域で10%とされました。これらは交渉での主張を折衷させたもので、生物種の減少阻止に十分とはいえません。
各国が目標を上回る対策をとることが必要です。湿地を保全するラムサール条約などでの取り組みも重要であり、今回の目標を引き上げる必要も出てくるでしょう。
米国は、資源への途上国の発言権が強まることはバイオテクノロジーなど米企業の活動を制約するとして、世界的すう勢に背を向け、生物多様性条約に参加していません。資源利用の拘束力ある国際ルールが設けられたことによって、条約不参加が不利に働くことにもなります。米国は条約に参加し、自らの責任を果たすべきです。
日本に大きな責任
交渉妥結は新たな始まりです。多様性の損失は止めるどころか、地球温暖化ともあいまって、悪化しています。実効ある取り組みはまさに緊急です。
日本政府は、交渉を取りまとめた立場からも、生物多様性の保全に力を注ぐ大きな責任があります。生態系を破壊するような開発や公共事業、農業破壊に歯止めをかけねばなりません。ジュゴンが住む豊かな沖縄の海を破壊して米軍新基地を建設することは許されません。ムツゴロウやタイラギに大きな被害を出した諫早湾干拓の見直しも急務です。
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