2010年10月29日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
読書週間を迎えています。27日から11月9日まで。1947年に始まった行事です▼同じ年、小宮山量平さんは出版会社の理論社を興しました。創業にあたり、18世紀末ドイツの詩人ノバーリスの詩を掲げました。「同胞(とも)よ 地は貧しい/われらはゆたかな種子(たね)を まかなければならない」▼敗戦から2年。戦争で深い傷を負った日本人の心に新しい希望を。未来をになう子どもたちに夢を。小宮山さんが、本づくりに込めた思いです。しかし今、出版事情はきびしい。理論社は今月初め、経営破たんしました▼小学生のとき読んだ、理論社の本を開きました。大阪の貧しい一家の、きょうだい3人の作文集『つづり方兄妹』。年が真ん中の洋子さんは、小学校に入るなりいじめられます。上くちびるが裂けて生まれ、手術の跡が残り言葉も不自由でした▼口をきかず、いうことを聞かない彼女に、先生もよそよそしい。父親も、“成績がいいのは作文だけ”といってなぐる。心を痛める兄はある日、妹の担任の先生から聞かされます。“困った子と思ったけれど、もうよくわかっています。こんな子を教えるのが教師の本当の仕事だ、と”▼ひとりではなかった洋子さん。切実に読みました。群馬県で、小学6年の女児が自殺したばかりだからでしょう。いじめにあったとみられる彼女は、転校生がクラスであいさつする漫画を書き残していました。「『友達』っていいな!」と題して。せめて彼女に、希望をつなぐ本があればよかったのに。せめて。