2010年10月24日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「日本の森林は米が作った」。国土や水の研究家、富山和子さんが、『日本再発見 水の旅』に書いています▼わけはこうです。植えた木が子や孫の代でないと切れない林業は、独立しては成り立ちにくい。山村の人たちは、農作業の合間に山へ入る。山村で、農業がやっていけなくてどうして林業がやっていけるだろう―▼山や台地の谷底に開かれた田んぼは、谷地田(やちだ)とか谷津田(やつだ)とよばれます。田の湿地、水路、森林が組み合わさる谷地田は、本来、生き物の豊かなすみかでもありました。虫たち、カエル、ドジョウ、タナゴ…。彼らを好む鳥もやってきます▼しかしいま、米価は、農家が「米をつくって飯が食えない」と訴えるほど暴落しています。政府が検討しているTPP(環太平洋の戦略的経済連携協定)への参加は、米の生産量を9割も減らすといいます。谷地田をはじめ、多くの生物をはぐくんできた日本の水田は荒れ果てるでしょう▼今週末まで名古屋で、生物多様性条約を結んでいる国々の会議が開かれています。しかし、会議中の現実は、「生物多様性」などどこへやら。農業だけではありません。ジュゴンとサンゴ礁の沖縄の海に、新しい米軍基地をつくる計画。生物の宝庫、東京・高尾山をおびやかすトンネル工事▼クマの出没も、人と動物が共存できる自然の危機を物語ります。口先だけの「多様性を守る」なら、もうけっこうです。人間の富の源でもある「生物多様性」の大切さが、社会や国のあり方を問うています。