2010年10月23日(土)「しんぶん赤旗」

主張

環太平洋貿易自由化

国境措置の撤廃は許されない


 菅直人政権が、米国やオーストラリアなど農産物の輸出大国を含む国ぐにとの貿易自由化に強い意欲を示しています。首相は所信表明演説で「アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す」とし、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加検討を表明しました。前原誠司外相や大畠章宏経済産業相らも推進を表明しています。

 TPPには、農業貿易の急激な自由化をかねてから主張してきた国ぐにが参加します。2国間の自由貿易協定などとは比べ物にならない影響をもつもので、日本農業にとって死活問題です。

例外なき自由化

 TPPは2006年、ニュージーランドやチリなど4カ国が参加して発足しました。経済連携協定は商品貿易だけでなく、サービス貿易や投資、国内の規制など広範な分野が対象です。TPPの自由化はさらに、原則として例外品目を認めず、関税を撤廃するという徹底したものです。

 その後、オーストラリアや米国なども参加を表明し、現在交渉が行われています。アジア太平洋経済協力会議(APEC)諸国(21カ国・地域)に広げることも想定されています。

 米国はTPPを「世界で最も成長する環太平洋地域の経済統合を進める潜在基盤」と位置づけ、参加は米国の輸出拡大と経済回復に「決定的だ」としています。

 日本の食料自給率は40%(09年度)と先進国で最低水準です。世界貿易機関(WTO)農業協定のもとで、ほとんどの農産物は関税が低く設定され、大量に輸入されています。コメは高関税をかけているものの、“制裁”として不要なミニマムアクセス(最低輸入機会)米を大量に輸入しています。

 政府が足を踏み出そうとしているTPPは、わずかに残る国境措置も取り払うものです。農水省が07年に公表した試算によれば、国境措置の撤廃で、コメは将来的に90%減、生乳は88%減などとなり、食料自給率は12%に落ちます。

 日本農業は壊滅的な打撃を受け、産業として成り立たなくなります。食の安全・安心の確保や環境の保全も難しくなります。地域経済が破たんし、内需は一段と縮むでしょう。農業は一度破壊されれば、回復がきわめて困難です。

 菅政権は11月に横浜で開かれるAPEC首脳会議を、TPP参加の踏み台にしようとしています。

 世界ではいま、地球温暖化や貧困・飢餓など各国の協力が必要な分野が広がるもとで、国民生活を脅かす自由化一辺倒の考えが見直されています。農業破壊はこうした流れに反するものです。米国などの動きをみて「乗り遅れるな」とTPP参加を急ぎ、将来世代の生活まで掘り崩すことは重大な誤りといわなければなりません。

大企業の利益を優先

 菅政権がTPP参加を推進する根っこには、輸出拡大をねらう大企業による貿易自由化の要求があります。日本経団連は一貫して自由化を要求し、21日発表の文書でも「TPPへの早期参加を実現すべきである」と迫っています。

 政府は食料自給率「50%」を掲げ、民主党も「食料自給率向上」を公約していました。大企業の利益を最優先にして、公約を投げ捨てることは許されません。農業を守る国境措置は維持・強化こそが必要です。





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