2010年10月22日(金)「しんぶん赤旗」
待機児問題「市場任せ制度」前倒しへ
「特命チーム」が初会合
政府は21日、認可保育所の入所を待つ待機児童の解消を目指すとして、「待機児童ゼロ特命チーム」の初会合を首相官邸で開きました。現行の保育制度を廃止して保育を市場化する「子ども・子育て新システム」の前倒し実施の検討を目的としています。指示した菅直人首相も会合に出席しました。
政府が検討中の「子ども・子育て新システム」は、市町村が保育の実施責任を負っている現行の保育制度を廃止し、保護者が「自己責任」で事業者を選んで直接契約し保育サービスを買う方式に転換します。市町村が保育を保障する義務はなくなり、市町村は保護者が保育サービスを利用する際に補助金を出すだけになります。保育事業者が増えるかどうかは、民間事業者の参入任せなので、参入しやすくするために規制緩和が検討されています。
政府は、新システムの2013年度導入を目指していますが、特命チームは11年度からの実施を検討します。この日の会合で菅首相は、11月中旬までに前倒しの基本構想をまとめ、11年度予算編成に反映するよう指示しました。
同チームは、都市部に「特区」を設け、認可外保育所、小規模保育への参入をすすめるための規制緩和などを検討します。同チームのトップは岡崎トミ子少子化担当相。事務局長は、村木厚子内閣府政策統括官が就任。
解説
認可保育所の増設こそ
全国の待機児童は4月時点で厚労省の発表でも2万6千人にのぼります。深刻な事態の最大の原因は、旧政権も民主党政権も認可保育所をつくらず、子どもの安全を守るための規制を緩和して、子どもを詰め込んだり、認可外の施設を受け皿にする「金をかけない」やり方ばかりしてきたことにあります。
国が2004年に、地方交付税を大幅に減らしたうえに、公立保育所への国庫負担金を廃止して一般財源化したことも、地方自治体の保育所整備を停滞させました。市町村は保育の実施義務を負っていますが、果たされていないのが現実です。
待機児童解消に必要なことは、こうした規制緩和路線を転換し、国と自治体の責任で認可保育所を増やす義務を果たすことです。
ところが民主党政権は、自公政権以上の規制緩和と保育の市場化に突っ走っています。自公政権でさえ設けていた入所児童数の上限を取り払い、園庭や避難経路の設置などを定めた保育所最低基準も撤廃しようとしています。
さらに、「子ども・子育て新システム」では、市町村の保育実施義務、つまり市町村が保育サービスを「現物給付」する義務をなくします。保育の供給は市場任せなので、認可保育所が増える保障はありません。
現在、「新システム」の基本制度や「幼保一体化」の制度設計が内閣府を中心にされています。議論の進め方はスケジュール先にありきで強引です。13年度実施を目指す日程に「拙速で混乱を招く」との批判が出ているのに、11年度に前倒しするのは暴挙です。
介護保険制度で介護事業が民間化され、自治体が高齢者の動向を把握しなくなったことが「行方不明高齢者」を生んだ一因と指摘されています。保育でも、保護者が事業所と直接契約する「新システム」では、市町村は待機児童数をつかむ責任がなくなります。
菅首相は、保育分野での雇用創出を強調します。しかし保育士の待遇は規制緩和によって下がりました。いっそうの規制緩和と市場化でさらに低下するのは、介護分野で証明済みです。(西沢亨子)