2010年10月18日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

自治体が補助金削減 「事業仕分け」の影響も

全国に響けオーケストラ


 地方のオーケストラが資金難にめげず頑張っています。自治体からの補助金が削られ、民主党政権も事業仕分けでオーケストラ予算を縮小しようとしています。地域によりよい音楽を届けて模索する山形交響楽団と大阪センチュリー交響楽団について、府県議がリポートします。

音楽と地域を丸ごと発信

山形交響楽団

 山形交響楽団は、山形県出身の指揮者・村川千秋氏により組織された東北初のプロオーケストラとして1972年に誕生しました。

 アカデミー賞映画の「おくりびと」(滝田洋二郎監督、2008年)に、指揮者の飯森範親氏とともに出演した姿をご記憶の方も多いのではないでしょうか。

 通称「山響」と呼ばれ、年間約150回の演奏会を行い、学校を対象とした音楽教育普及活動にも長年取り組み、活動範囲は全国に及んでいます。演奏会場はいつもほぼ満席です。

 50人に満たない小編成をいかした美しい音色、多彩なソリストを迎えた演奏会、8年をかけたモーツァルト全交響曲演奏「アマデウスへの旅」は、4年目を迎えています。

 山響の専務理事で事務局長の秋葉政弘氏は、「昔からのファンが『最近の演奏がとても良くなっている』と言ってくれる。楽団員もお客さんが増えると励みになり、さらに演奏に力が入る」と語ります。

 演奏前に曲の背景などを紹介する話や、終了後の聴衆との交流会も好評です。また、山形を丸ごと発信し、県産品や観光アピールにも貢献。支援者の輪を広げる要因になっています。

 しかし、文化予算を大幅に縮減するという、昨年の民主党政権の「事業仕分け」には大変な危機感を持ちました。山響の運営は会費や寄付金、演奏会収入、国や県、県内自治体からの公的助成で賄われています。国の補助金を削られれば運営は厳しくなります。

 山形県議会は、昨年12月定例会で、「子どものための優れた舞台芸術体験事業の予算確保を求める意見書」を全会一致で提出しました。秋葉事務局長は、「県や県議会の要請もあり、今年度は補助金が確保されたが、来年度はどうなるのか」と不安をもらします。

 私も山響の美しい響きに身を浸していると満ち足りた気持ちになり、明日への活力がわいてきます。地域で文化・芸術に親しむ環境を整備することはとても大切なことと感じています。(山形県議・渡辺ゆり子)

収入確保と社会貢献と

大阪センチュリー交響楽団

 大阪センチュリー交響楽団は、1989年に「府民に親しまれ、府民の誇りとなるオーケストラ」を目標に、大阪府が設立しました。55人の中規模編成で、その「緻密なアンサンブル」は高い評価を得ています。私も定期会員として毎回の公演を楽しみにしてきました。

 大阪府は、2007年度で4億1800万円の補助金を支出していました。年10回の定期公演とともに、星空ファミリーコンサート、特別支援学校コンサート、タッチジオーケストラ(児童・生徒を対象としたオーケストラを感じるコンサート08年度16公演)、府立病院巡回コンサートなどにも意欲的に取り組んできました。

 08年2月に就任した橋下徹知事は、就任後間もなく、センチュリー交響楽団への補助金廃止を打ち出しました。「行政が特定の分野の文化、特定の団体などを決め、税を投入して支援するのはおかしい」というものでした。補助金廃止は楽団の存立を根底から揺さぶるものでした。

 府議会では日本共産党をはじめ、ほとんどの会派が補助金継続を求めました。その結果、補助金廃止は11年度に持ち越されました。

 府から補助金廃止方針が押しつけられる中で、同楽団は、(1)来年4月1日から、公益財団法人日本センチュリー交響楽団に移行し、大阪府から自立する(2)社会貢献活動は今後も続け、新たに府民向け名曲コンサートを実施する(3)大阪での活動を軸にしながら、大阪の外へも公演活動を広げる(4)楽団の規模を76人編成に拡大し、より多様な曲が演奏できるようにする(5)定期会員、ファンクラブ、賛助会員を拡大し、民間スポンサーを確保して収支均衡をはかる―などです。

 補助金廃止は、文化振興を理解しない愚行というべきものです。その中で新たな発展方向を打ち出した大阪センチュリー交響楽団に、浪速のど根性を見ました。 (大阪府議・堀田文一)

財政的重圧増す中 新たな試みも

日本音楽家ユニオン・オーケストラ協議会議長 佐藤裕司

 現在、日本にはおよそ30のプロ・オーケストラがそれぞれ全国各地で特徴的な活動を展開しています。世界的な不況の影響で、国際的にも芸術団体の活動には財政的な側面からの重圧が増しています。神奈川フィルハーモニー管弦楽団は県の補助金が昨年度より1800万円もカットされ、補助金維持の署名に取り組んでいます。

 地方都市のオーケストラでは新たな試みも見られます。広島では野球、サッカー、オーケストラのプロ3団体によるコラボレーションが大きな反響をよび、他のオーケストラも、地域との密着を高める取り組みを始めました。

 山形交響楽団では山形市内の有力企業の全面的な協力を得て日本のオーケストラとしては初の試みとなる自主レーベル(レコードの制作・発売会社)を立ち上げ、定期演奏会の録音をCD化し発売するほか、音楽監督の飯森範親氏が県の特命観光大使として山形交響楽団と山形県の知名度を高めるPRを多方面との協力で積極的に進めるなど、市民への新たなアプローチが進んでいます。

 このようにオーケストラの音楽家たちが市民の一人として地域の振興に貢献する姿勢は、好感を持って社会に受け入れられています。オーケストラが存在するそれぞれの地域でのより細やかな活動は、広範な理解と支援を得るためにもますます重要になってくるでしょう。(山形交響楽団トランペット奏者)





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