2010年10月10日(日)「しんぶん赤旗」
主張
大学政策転換
ノーベル化学賞受賞を契機に
今年のノーベル化学賞を2人の日本人研究者が受賞しました。2年前の益川敏英さんら4人の物理学賞・化学賞の受賞につづき、日本の基礎研究の水準の高さを示す快挙です。
研究者としての夢がかない、長年の労苦が報われたことに、心からの祝福を送りたいと思います。
科学のすばらしさ
受賞した鈴木章北海道大学名誉教授と根岸英一アメリカ・パデュー大学特別教授の研究は、化学反応しにくい異なる有機化合物をパラジウムを触媒にして結合させ、新しい有機化合物を効率的に合成する「クロスカップリング」といわれる手法を開発したものです。この研究成果は、医薬品や液晶などの生産にいかされ、私たちの生活に密着した製品をひろくうみだす基礎技術となっています。
物質どうしを仲介して結びつけ、新しい物質をつくりだすという、触媒のもつ不思議な性質には、好奇心をかきたてられます。鈴木氏の発見には、他の化合物と反応しにくい有機ホウ素化合物の「欠点」が、触媒による反応が進めば不純物ができにくい「長所」になるという「逆転の発想」があったことにも、驚かされます。今回の受賞は、多くの人々に科学のもつ面白さ、すばらしさを伝え、感動をあたえています。
同時に、今回の受賞を手放しで喜んでばかりはおれません。
鈴木氏らの研究成果は、1960年代から70年代に大学での地道な基礎研究でうまれたものです。ところが、日本の大学はいま、80年代以降に自民党政治がすすめた「臨調行革」や「構造改革」によって、極めて深刻な危機に追い込まれています。大学の教育・研究をささえる基盤的経費が毎年削減され、研究者が資金集めや短期的な成果をだすことにおわれて、じっくりと基礎研究にとりくむことが困難になっています。
研究への夢や大志を持って博士になっても、研究職につけるのはわずかであり、大学院進学者が減少するなど、学術の将来が危ぶまれる重大な事態です。若い研究者は海外にでて武者修行すべきだといわれますが、帰国後に研究ポストにつける可能性が少ないという冷たい現実に直面しています。
民主党政権は、こうした事態をうみだした政策を転換するどころか、事業仕分けで科学予算を短期的な効率主義によって削減する一方、来年度予算の概算要求では大学予算の1割削減を打ち出しました。日本共産党が各地ですすめている国立大学長との懇談でも、これでは教育・研究は立ち行かない、国の将来が危ういとの深刻な危機感がこもごも語られています。
総合的な政策確立を
菅内閣は、科学技術によるイノベーション(新しい価値の創造)で経済成長をはかるといいますが、基礎研究を支援し、その成果を応用にいかし、実用化に結ぶことは、一朝一夕にはできません。すそ野の広い地道な基礎研究の積み重ねが何よりも必要です。そうした基礎研究支援を抜本的に強め、20〜30年をみこして実用化へつなぐような総合的な科学・技術政策を確立することこそ必要です。
日本共産党が6月に発表した大学政策提言は、基礎研究支援の抜本的な強化を柱にしています。この提言の方向で国の大学政策転換をはかることが急務です。