2010年10月4日(月)「しんぶん赤旗」
主張
中東の非核地帯化
「核のない世界」への道程に
域内での核兵器の製造・保有や使用を禁止した非核兵器地帯の創設は、人類の悲願である核兵器廃絶に向かう具体的措置の一つです。非核兵器地帯はいま、中南米・カリブ海、南太平洋、東南アジア、アフリカ、中央アジアに広がっています。
5月に開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議は、中東の非核地帯化に関する国際会議を2012年に開くことで合意しました。中東の非核化は、核兵器拡散の危険をなくすにも、この地域の緊張を緩和し、和平を促進するにも大きな意義をもっています。
イスラエルに放棄迫る
9月下旬に開かれた国際原子力機関(IAEA)総会には、イスラエルに対してNPT加盟とIAEAの包括査察を受け入れるよう求めた、「イスラエルの核能力」決議案が提出されました。
NPTは米ロ英仏中の5カ国以外の核兵器保有を禁止し、5カ国を含む世界の核兵器軍備の削減・撤廃を定めています。IAEAの決議案は、約80発の核兵器を保有しているとみられるイスラエルに核兵器の放棄を迫るものです。
IAEAは昨年、同様の決議案を採択しています。ところが、NPT再検討会議の結果を受けて対応が注目された今回は、賛成46、反対51で否決しました。
イスラエルとともに、米国が強く反対したことが否決につながりました。クリントン米国務長官は、イランやシリアの「査察義務違反」をあげ、イスラエルを名指しした決議をあげるべきでないと主張しました。決議採択は、12年の国際会議へのイスラエルの不参加と会議の不成功につながるとも“警告”しました。
中東では、平和目的だとしてウラン濃縮を進めるイランに対し、核兵器開発の疑惑があるとして、欧米諸国が国連による制裁措置を強めています。NPT加盟国のイランに、その核開発が平和的であることを証明する義務があることは当然です。しかし、核兵器保有の強い疑惑のある国にNPT加盟を求める決議には反対しながら、別のNPT加盟国には査察義務違反で制裁を行うという態度は、NPTそのものの信頼性を傷つけるものです。
オバマ米大統領はNPTの原則について、核保有国は核軍備削減・撤廃に向かい、非核保有国は今後も核兵器を保有せず、原子力の平和的利用はすべての国の権利であることだとして、NPT体制の強化を通じて核兵器拡散の脅威をなくす必要を強調しています。しかし、IAEA決議案をめぐる米政府の態度は、恣意(しい)的な二重基準だという批判が、中東諸国を中心に高まっています。
日本も「イスラエルの核能力」決議案に反対しました。その主張は米国と“うり二つ”で、唯一の被爆国の政府として核兵器に反対するものとなっていません。
核兵器廃絶と結びつけ
イランやシリアが核兵器禁止条約に賛成の意思を示していることは注目すべきです。イスラエルを含む中東の非核化を、核兵器廃絶を直接の課題とする国際交渉の開始と結びつけて追求することが必要です。NPT再検討会議の最終文書に示された中東非核化への国際社会の意思を踏まえ、核兵器廃絶を追求することが、中東と世界の平和と安全に不可欠です。
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