2010年10月2日(土)「しんぶん赤旗」

首相の所信表明演説

「有言実行」の中身は?


 1日の衆参本会議で所信表明演説を行った菅直人首相は、「有言実行内閣」だと表明し、「先送りしてきた重要政策課題の実行」を掲げました。「実行」する政策には自公政権から引き継いだものもあります。政権交代から1年。自民党流の古い政治をどうするのか、何を実行しようとしているのか――。

大企業の支援策だらけ

経済対策

 経済対策の柱として掲げたのが「経済成長の実現」です。「経済の歯車を回すのは雇用」と強調し、政府が先頭に立って雇用を増やすとしました。

 問題はその中身です。菅首相が掲げたのは、新産業の立地の補助や国内立地促進策など大企業支援の施策が中心です。「抜け穴」だらけの労働者派遣法改定案の成立を呼びかけるだけで、非正規雇用労働者の正社員化や最低賃金の大幅な引き上げなど、いま切実に求められる対策は皆無です。労働者派遣法の抜本改正の観点は欠落したままです。

 急激な円高の進行でもっとも被害を受けるのは中小企業と労働者です。日銀の企業短期経済観測調査(9月29日発表)でも、中小企業(製造業)の3カ月先の景況感は大幅に悪化しました。中小企業は先行きへの不安を募らせています。ところが、中小企業対策については補正予算の柱に項目として掲げるだけです。

 政府・日銀による「為替介入」に言及し、今後も実施する構えは示しましたが、「投機マネー」に対する規制もみられません。

 一方で明確なのは大企業に法人税減税を行うために、庶民には消費税増税を押し付けるという方向です。法人税減税に向けて年内に見直し案をまとめると明言しました。

 消費税増税については、「社会保障改革の一体的実現」を口実に「与野党を超えた議論が不可欠」と強調。一部野党を取り込み、“談合”で消費税増税に道を開こうとする姿勢を示しました。

 そこにあるのは「大企業を応援すれば経済全体も良くなる」という自民党流の古く破たんした道です。

幼保一体化法案を明言

社会保障

 菅首相は孤立したお年寄りを守るなどの課題をあげ、「しっかり」した社会保障制度をつくると述べました。それでは、民主党政権が進めている社会保障「改革」とは何か。

 後期高齢者医療制度に代わる「新制度」では保険料アップか受診抑制かを迫る制度の根幹を残したまま、同じ仕組みを全国民に広げる国民健康保険の「広域化」と医療保険制度の「一元化」を推進しようとしています。

 介護が必要な高齢者の在宅生活の支えである生活援助を介護保険の給付から外す方向も検討しています。

 菅首相は幼稚園と保育所の「一体化」を含む法案を来年の通常国会に提出すると明言しました。保育所探しを親の自己責任に変え、低所得者にもサービスごとの「応益負担」を課す方向で、保育を保障する国と市町村の責任を投げ捨てて市場任せにするものです。

 行政が担うべき公共サービスを企業・NPO・ボランティアに肩代わりさせ、「官製ワーキングプア」を生み出す「新しい公共」の推進も強調しました。

 さらに菅首相は「地域主権改革」を社会保障「改革」の「前提」とする考えを表明。自治体に対する補助金を、使途を定めない「一括交付金」に変えることを強調しました。いま進めている、福祉・教育の最低基準を取り払う「義務付け・枠付け見直し」とともに、福祉・教育の財源を保障する国の責任を放棄し、財政負担を減らす狙いです。

 これらはすべて、自公政権が掲げた「改革」を引き継ぐ内容です。国の責任を投げ捨てて社会保障費を削減する「改革」を継続しながら「しっかり」した社会保障を語るのは、国民を欺く行為です。

日米同盟強化へ具体策

外交問題

 菅首相は、国際社会は「歴史の分水嶺」ともよぶべき大きな変化に直面していると指摘。その上で、「国民全体で考える主体的で能動的な外交を展開していかなければならない」と主張しました。

 しかし、菅首相は、最優先課題として「日米同盟」をあげ、「世界の安定と繁栄のための共有財産」だと改めて表明。11月の日米首脳会談で「深化のための具体策を詰める」とまで明言しました。具体策として掲げたアフガニスタン支援などは、紛争の泥沼にはまるアメリカの要求に基づくもので、日本国民のなかから出てきたものではありません。

 沖縄・普天間基地「移設」問題も、「日米同盟の深化」の柱の一つに組み入れ、名護市辺野古での新基地建設をうたった「5月の日米合意を踏まえて取り組む」として、新基地建設を押し付ける姿勢を改めて示しました。

 普天間基地の「県内移設反対」という沖縄の民意を無視し新基地建設を推進する姿勢は、首相のいう「国民による主体的な外交」とは正反対のものです。

 菅首相は先の国連総会で、地球温暖化防止、核軍縮・不拡散を「日本が具体的に行う貢献」と位置づけ、先頭に立つ決意を表明しました。しかしこの日の演説では、これら地球規模の課題も「日米同盟」の枠内で「協力して対処する」としました。これでは、地球温暖化防止などで抵抗しているアメリカの許す範囲でしか取り組めなくなってしまいます。

 沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件に関し、菅首相は、「領土問題は存在しない」と従来の立場を繰り返しながらも「冷静に対処することが重要」と述べました。首相は前日の衆院予算委員会で、日本共産党の笠井亮議員の質問に対し「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際的にもゆるぎない根拠があることをあらゆる機会に表明する」と答弁しており、この言明に基づく実行が求められます。





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