2010年9月28日(火)「しんぶん赤旗」
国保、期限定め広域化
厚労省方針 保険料高額に拍車も
市町村が運営する国民健康保険(国保)について厚生労働省は27日、全年齢を対象に都道府県単位の運営に移行する「広域化」を、全国一律で期限を定めて実施する意向を表明しました。同日開かれた同省の高齢者医療制度改革会議で提示しました。
また2013年度に導入を狙う後期高齢者医療制度に代わる「新制度」については、対象年齢を75歳以上とする方針を示しました。「新制度」では、75歳以上の高齢者の8割強を占める約1200万人が、都道府県単位で財政運営する国保に加入。市町村単位で財政運営する現役世代と別勘定になります。
その次の段階で、全年齢を対象にした国保の広域化を行います。広域化について厚労省は、保険料の算定方法を法令で定め、都道府県単位の運営主体が「一般会計からの繰り入れを行う必要は生じない仕組みとする」としています。その場合に、財政運営と保険料設定を現役世代と高齢者で別々にするかどうかは、高齢者医療の「新制度」導入後に検討する方針です。
広域化の手順について同省は「国民にとってわかりやすい」ことなどを理由に、期限を設定して全国一律で移行するのが適当としました。広域化への移行時期は高齢者医療の「新制度」導入後、一定の準備期間を置くとし、今後検討します。
現在、多くの市町村は、高すぎる国保の保険料(税)を抑制するため一般財源を国保会計に繰り入れています。国保広域化の狙いは、市町村ごとに異なる保険料の「平準化」を口実に市町村の一般財源の繰り入れをやめさせることにあります。繰り入れがなくなれば、医療費の増加が保険料アップに直結し、高すぎる保険料のさらなる高騰をもたらします。
解説
国保広域化 狙いは医療費削減
民主党政権は国民健康保険(国保)の「広域化」を熱心に推進しています。
厚生労働省は都道府県知事あてに通知(5月19日)を送付。国保の広域化に向けて、現在、市町村によって異なる保険料(税)を均一化するため、「保険料の引き上げ、収納率の向上、医療費適正化」などを行い、一般財源の繰り入れを「できる限り早期に解消する」よう求めています。
現在は全国の市町村は計約3700億円を一般財源から国保に繰り入れ、保険料を抑制しています。繰り入れをなくせば、保険料の大幅アップは避けられません。
大阪府では、橋下徹知事と16市町村代表が国保広域化に向けて一般財源の繰り入れを全廃し、知事のリーダーシップで保険料値上げを推進することなどを協議しています(7月22日)。繰り入れを全廃した場合、大阪府の国保加入1世帯当たり年2万円の保険料アップになります。
もともと、国保を広域化するシナリオを打ち出したのは、医療費の削減を進めた小泉・自公政権です。一般財源の繰り入れをなくし、医療費の増加を保険料アップに直結させる狙いでした。際限ない保険料アップか、医療費の抑制か、という二者択一に国民を追い込む政策です。
後期高齢者医療制度の運営主体を、一般財源をもたない都道府県単位の広域連合としたことも同じ狙いでした。当時の厚労省室長補佐は率直に、「後期高齢者医療制度の保険者を市町村にすると、市町村は国保と同じく、一般会計から繰り入れしてしまう」と語っていました。
国保の広域化で運営主体を都道府県とするか広域連合とするかは未定ですが、仮に都道府県が主体となっても、厚労省は一般財源の繰り入れをなくす方針を明確にしています。これは、後期高齢者医療制度に組み込まれた、「保険料の負担増がいやなら医療費を抑制しろ」という仕組みを国保加入者の全年齢に拡大するものです。
広域化の理由として国保の財政難があげられますが、その最大の原因は国保財政全体に対する国庫支出金が1980年代の約50%から2007年度の約25%にまで半減させられてきたことです。これを復元することこそ必要です。
それ抜きでは、広域化しても国保の財政難の解決にはなりません。そのうえ、一般財源からの繰り入れをやめれば、いっそう財政を困難にし、保険料値上げと、払えない人の増加という悪循環を招くのは必至です。(杉本恒如)
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