2010年9月19日(日)「しんぶん赤旗」

主張

厚労省元局長無罪

自白偏重の捜査が問われる


 警察や検察の捜査に根本的な疑問を突きつける、裁判所の判決が相次いでいます。

 なかでも障害者団体向けの郵便料金割引制度を悪用した事件で偽の証明書を発行したとされた厚生労働省元局長に、大阪地裁が無罪を言い渡したことは重大です。大阪地検も控訴を断念する方針で、無罪が確定する見通しです。

 だれであれ、どんな事件であれ、無実の罪を着せられて、社会的な地位まで奪われるということは、絶対にあってはならないことです。検察が描いた事件の構図を全面否定した無罪判決は、捜査の問題点を鋭く問うものです。

「筋」に合わせた作文

 障害者団体のための第3種郵便の割引制度を悪用し、障害者団体でもないのに安い料金の適用を受け、しかも企業の広告を載せたダイレクトメールを送ってぼろもうけしたこの事件は、障害者を食い物にして傷つけたに等しい、きわめて悪質な事件です。国会議員の元秘書の肩書をちらつかせて制度を悪用した偽の障害者団体関係者だけでなく、それに手を貸した厚労省の担当者やダイレクトメールを利用した家電小売店などの大企業も、きびしく指弾されなければならないことは明らかです。

 ところが捜査にあたった大阪地検特捜部は、当時厚労省雇用均等・児童家庭局長だった人物が、国会議員の働きかけを背景に、障害者団体だという偽の証明書発行を担当者に指示したという筋書きを勝手に描き、元局長を逮捕・起訴したのです。元局長は容疑を否認しましたが、検察は密室の取り調べで得た関係者の供述から元局長の犯罪を主張しました。証拠よりも「自供」に頼る、日本の刑事司法が抱える大きな問題点を示しています。

 大阪地裁の公判では、元局長だけでなく、検察が証拠にしようとした証人がいっせいに、捜査段階での「供述」は「事実ではない」と全面否定しました。そして裁判所は「調書は検事の誘導で作られた」もので信用できないとして、事件の根幹にかかわる供述調書の大部分を採用しませんでした。その結果としての無罪判決―検察側の全面的な敗北は明らかです。

 公判では、元局長が国会議員から働きかけを受けたという日に、国会議員はゴルフに出かけており、客観的な証拠と検察があげる「供述」が合わないことも明らかになりました。しかも最高検の決定や最高裁の判決に反して、取り調べ段階での検事の取り調べメモがすべて廃棄されていました。不当な取り調べの隠ぺいが組織的に行われた疑いを含め捜査の実態について徹底した検証が求められます。

取り調べ「可視化」実現を

 問題はこの事件だけにとどまりません。北九州市で病院の元看護課長が傷害罪に問われた事件でも、福岡高裁は逆転勝訴の判決で、警察の捜査を「自白を誘導した疑い」ときびしく批判しています。

 過去の幾多の事件で冤罪(えんざい)を生んだ最大の元凶は、密室の強引な取り調べによる虚偽の「自白」です。検察や警察は知能犯事件などでは供述が証拠の中心になるのは当然だと開き直ってきましたが、それはもはや通用しません。自白偏重の捜査を根本から見直し、取り調べの全過程を例外なく録画し検証可能とする全面「可視化」の実現を真剣に検討すべきです。





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