2010年9月12日(日)「しんぶん赤旗」

マレーシア元首相 マハティール氏語る

東南アジアは外国軍の駐留を必要としていない


 マレーシアのマハティール元首相が本紙のインタビューに語った発言の大要は以下の通りです。


平和のためASEANは結成された

写真

(写真)マレーシアのマハティール元首相=2010年8月、クアラルンプール

 地域の平和と安全保障のため、私たちがしてきたことは、東南アジア諸国連合(ASEAN)を結成することです。

 ASEANは(結成時)経済的なグループではなく、戦争を避けるための国家グループでした。ASEAN結成以前には、領有権をめぐる対立もありました。しかし、そうした経験の後、互いに脅したり、侵略しあうのではなく、一緒にテーブルについて問題を解決するほうがよいと考え、ASEANは結成されたのです。

 ASEANはどんな問題でも、軍事的な行動をとらず、交渉を通じて解決するよう努力してきました。

 ASEANが目指す地域の安全保障構造としては、近隣国の国防相が相互の連絡を維持し、意見交換や議論をし、また合同訓練を行う。ASEANは、そのことを通じて平和を維持するという考えです。

 ASEAN地域フォーラム(ARF)やさまざまな会合で話し合いを続けることは、対立するよりもよいことです。それらのフォーラムは地域の安全保障に寄与しています。

在日米軍は軍事的な脅し

 日本に駐留する米軍に関連して言えば、軍事的脅威は、戦争の危険を増やすと考えています。在日米軍基地は明らかに中国にとって脅威となり、中国側の反応は軍事能力を高めるということになるでしょう。軍事的エスカレーションが起こりかねません。平和にとって、いいことではありません。

 今日(の世界)では他国を打ち負かしても、その後に平和は生まれません。軍事的な脅しは間違いであり、もう期限切れなのです。

 私は中国が日本を攻撃したがっているとは思いません。もしそのようなことをしたら、中国自身に破壊的な結果をもたらします。国際社会は不満を持ち、対抗するでしょう。自国に破壊をもたらす戦争を望んでいるとは考えられません。

 日本は、米軍基地がなくても安全保障を図ることが完全に可能です。中国の脅威は粉飾されています。

 東南アジアの国々は、米軍も、どの外国軍の駐留も必要としていません。

 現在この地域には外国軍の基地はありません。最後の米軍基地は、フィリピンが撤去を求めました。いま(世界)各国は外国の軍事基地を持つべきではありませんし、持たないという方向に行くべきだと私は考えます。

解決の方法は交渉しかない

 いま人々は戦争で問題が解決されないということをよく認識しています。解決する方法は交渉しかないのだと。現在の世界のほとんどの人は、戦争を望んでいません。ASEANは同じ流れを追求しています。

 現在、他国を征服し支配することはできません。政府を倒すことはできるかもしれないが、国民は受け入れない。米国がイラクを倒した後、人々はたたかい続け、最終的に米国は撤退を余儀なくされています。アフガニスタンでも同様です。戦争で植民地を獲得したり、みずからのルールを押し付けるのは、いまや考えられないことなのです。

 世界最大の軍隊を持ち、もっとも洗練された武器を持っても、いまや無駄遣いにすぎません。それらの武器を使うことはできないからです。国家間の紛争解決の選択肢に戦争があるという発想は、もう時代遅れ・期限切れです。それでも多くの国が巨額の無駄遣いをして戦争の準備をしているのは、それが大きなビジネスだからです。

 戦後、発展途上国で多くのグループが生まれました。カリブ海やアフリカ。しかしもっとも成功したのはASEANだと思います。だからこそ、すべての先進国がASEANにきて、対話をしているのです。ASEANの枠組みは優良で、それは世界の平和にも貢献するでしょう。(聞き手 クアラルンプール=井上歩 写真も)


ASEAN 10カ国加盟 ARF 26カ国とEU参加

 東南アジア諸国連合(ASEAN) 「東南アジア諸国の豊かで平和な共同体がつくられる基盤を強化する」(結成宣言)目的で1967年、インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアの5カ国が設立。現在、東南アジアの全10カ国が加盟しています。

 威嚇や武力行使の放棄、紛争の平和的解決を明記した東南アジア友好協力条約(TAC)を国家間の行動規範としています。

 2015年に政治・安保、経済、社会・文化を3本柱とする共同体創設をめざしており、08年12月に統合の基礎となる「ASEAN憲章」が発効しました。

 ASEAN地域フォーラム(ARF) アジア・太平洋地域全体の政治や安全保障問題を多国間で討議するため、ASEANが域外国を招く形で94年に始まりました。

 自由な意見交換の重視と、コンセンサス(全会一致)による決定が原則。加盟国相互の信頼醸成、予防外交、紛争解決の3段階をめざし、毎年開催されます。

 ASEAN加盟10カ国と日本、中国、韓国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、ロシア、インド、パキスタン、モンゴル、北朝鮮、東ティモール、バングラデシュ、スリランカの計26カ国と欧州連合(EU)が参加しています。

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