2010年9月11日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
イギリスに、アーサー・ポンソンビーという政治家がいました。彼は第1次大戦後、政府が国民を戦争にかりたてるための口実に10の型があるのを発見した、といいます▼いわば、“戦争宣伝の10の法則”。作家の故米原万里さんが、「甘い言葉には裏がある」ということわざの意味を探るなかで紹介しています(『他(た)諺(げん)の空似―ことわざ人類学』)。いくつか、みてみましょう▼まずは、為政者は「われわれは戦争をしたくない」と主張する(第1法則)。「敵方が一方的に戦争を望んでいる」(第2)というわけです。なぜなら「敵の指導者は悪魔のような人間だ」(第3)からで、「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」(第4)…▼第9法則「われわれの大義は神聖なもの」。だから、「大義に疑問を投げかける者は裏切り者である」(第10)と非国民よばわり。たしかに、「法則」といっていいほど多くの戦争にあてはまります▼9・11テロから9年。当時、息をのむ破壊と理不尽な犠牲、愛する人を亡くした人の悲しみを前にして、誰もが「テロのない世界を」と願いました。しかし、米政権が始めた「対テロ戦争」も、ほぼ「10の法則」をなぞりました▼9年後、アメリカはいまも戦時、テロは世界に広がっています。どの地でも、戦争とテロの最大の犠牲者は罪のない人民です。憎しみと戦争でテロをなくせるかのように説く文句は、ことわざにいう「甘い言葉」でした。どんな「裏」があったかは別として。