2010年9月10日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
槍(やり)と槍で突きあう戦に勝つには、より殺傷力をもつ槍を。工夫をこらした新型の槍で攻め込むと、敵は盾で対抗する。ならば弓矢を。ところが敵は、頑丈なとりでを築き、頭の上から矢の雨を降らせる…▼軍備の競い合いを、人と感染症のたたかいにたとえる人もいます。人はもともと、細菌におかされると免疫力で対抗します。やがて、免疫力で太刀打ちできないときに薬を用いるようになりました▼1928年。細菌学者フレミングが、新しい時代を開く物質を発見します。人に無害で細菌には有害なペニシリン。抗生物質の発見第1号。初めは見向きもされなかったペニシリンは、第2次大戦の負傷兵を救う薬に使われます▼ところが、早くも大戦中の43年、ペニシリンの効かない菌が生まれました。以来、抗生物質と耐性菌のいたちごっこ。東京の3病院で感染し、9人の命を奪っていたアシネトバクター菌は、複数の抗生物質に耐性をもちあわせます▼耐性菌の登場は、生物の進化の物語です。細菌がみずからを複製してふえてゆくなかで、突然変異で強い抵抗力をもつ菌も現れる。すると、その菌に的を定めてたたかう抗生物質は対抗力を失う―。しかし、どんな薬も効かずに死を待たざるをえない人たちの無念は、言葉でいい表せません▼感染をくいとめる素早い対策とともに、抗生物質に頼りすぎない医療を。「力には力を」の、どこかの軍事大国のような行き方ではなく、いたちごっこを和らげ細菌とうまく共存する道をめざして。