2010年9月6日(月)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
かつて武蔵野とよばれた東京・多摩の市街地を、緑の帯が東西につらぬきます。江戸時代に掘られた玉川上水の水路に沿って、ケヤキやコナラが列をなして茂る木立です▼土手の上の遊歩道を行けば、猛暑もしばらくどこへやら。木陰は外界より5度ぐらい気温が低い、といいますから。木もれ日に、水面(みなも)や草むらがきらめき、木々の葉影がゆらゆらと揺れます。濃い緑陰▼そんな、とある朝のことでした。年配の女性が、しゃがみこんで目をこらしています。遊歩道と草木の自然界を分かつ柵のそばです。「マヤランですよ」と彼女。「絶滅危(き)惧(ぐ)種です。玉川上水でも、このあたりともう一カ所ぐらいにしか生えていないそうで…」▼柵の下のあちこちで、頼りなさそうな白い茎をひょろりと伸ばしています。15センチから20センチほどでしょうか。緑葉はありません。純白のふちどりに真ん中が赤紫の、小さな花びら。光合成で自活する能力をもたず、共生する菌類から栄養素をもらう腐生植物です▼女性のような名前は、山の名にちなみます。神戸の六甲山地、摩耶山で初めてみつかったから「マヤラン」。森林の伐採や庭で育てようとする人の採取で、数が減っています。環境庁は、「絶滅の危険が増大している」という「絶滅危惧II類」に定めています▼絶滅危惧II類には、キキョウやメダカ、ライチョウも入っています。日陰でひっそりと咲くマヤラン。秘密の花にしておこうかとも思いましたが、けなげに生きる姿に心を打たれ、紹介しました。