2010年9月2日(木)「しんぶん赤旗」

圏央道 環境被害を軽視

東京地裁 天狗裁判で不当判決


 1300種の植物が生息する高尾山(東京都八王子市)を直径10メートルのトンネル2本で貫く圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設をめぐり、市民らが国土交通省の事業認定と都収用委員会の収用裁決の取り消しを求めた「高尾山天狗(てんぐ)裁判」行政訴訟の判決が1日、東京地裁でありました。八木一洋裁判長は「圏央道は公共性がある」として環境被害の影響を軽視する判断を示し、原告の請求を棄却しました。

 訴訟で原告側は、高尾山を含む区間の事業認定と、市民らのトラスト運動地を取り上げた収用裁決について、圏央道が貴重な自然や静かな住環境を壊す公益性のないもので違法だと強調。国の「圏央道の費用対効果は採算基準を上回る」という主張もまともな根拠がなく、効果を過大視していると追及してきました。

 判決は、地下水位の低下や滝枯れなど自然破壊について「トンネル工事の影響と認めるには足りない」と否定。圏央道の費用対効果についても国の主張を追認し、原告の訴えを退けました。

 原告団の吉山寛団長と弁護団の鈴木堯博団長は判決後の記者会見で、「政府の言いなりで、不当判決としか言いようがない」と批判。控訴する意向を明らかにしました。


解説

行政に追随して司法の責任放棄

 年間250万人が訪れる自然の宝庫・高尾山に大穴を開け、住環境も壊す行為に「公益性」があるのか―。高尾山天狗裁判で問われてきた問題です。しかし、東京地裁の判決は、国の環境破壊を追認し、行政をチェックする司法の責任を放棄するものでした。

 圏央道沿線では、高尾山北側の国史跡・八王子城跡の「御主殿の滝」が枯れ、南側の榎窪川も水枯れしたのをはじめ、絶滅危ぐ種のオオタカが営巣を放棄するなど自然破壊が相次いでいます。しかし、今回の判決は、2007年6月の高尾山トンネル工事差し止め訴訟などこれまでの判決からも後退し、水枯れなどはトンネル工事の影響とまではいえないとしています。景観破壊や大気汚染、騒音についても「(国の判断が)妥当性を欠くとは言えない」と、住民を何ら顧みない態度を示しました。

 大争点の圏央道の公益性についても、「費用便益分析」のまともな根拠も示さず「公益性」を振りかざした国の主張を追認し、「(国の分析結果は)不合理とは言えない」と原告の追及を一蹴(いっしゅう)。原告弁護団の鈴木堯博団長は「公共事業優先の結論先にありきだ」と厳しく指摘しました。

 “都民のオアシス”高尾山へのトンネル建設は、民主党政権が昨年総選挙で訴えた「コンクリートから人へ」の公約にも逆行するものです。国は環境破壊のトンネル建設を中止し高尾山の自然を守る方向に転換すべきです。(東京都・川井亮)





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