2010年9月2日(木)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 虫の標本を見る機会が一度はあるでしょう。標本箱に納められた虫を見た感想はさまざまでしょう。東京大学総合研究博物館で「昆虫標本の世界」展を開いています▼同博物館には20万点を超す虫の標本があるそうですが、展示は、美麗種や立派な角を持つ大型の甲虫を集めたのとはひと味違います。ごく小さな展示室に、肉眼でも区別が難しいアリなど小さな昆虫の標本とともに、捕虫網などの採集道具、展翅(てんし)板などの標本作製の道具が並んでいます▼虫を捕まえて、標本にし、生殖器など虫の特徴をスケッチし、地域的な変異や新種かどうかを研究し、成果を発表する過程がみてとれるようになっているのです。展示タイトルに「採集から収蔵、多様性保全まで」とあります▼温暖化と食草栽培によって北上する南方系の小さなチョウの標本、生態系の破壊や外来種によって減少する水生昆虫のタガメやゲンゴロウ…。都心で今では見られない草原性のチョウの標本もありました▼なぜ、そこで見られなくなったのか。どんな環境だったのか。実物を目の前に想像がふくらみます。虫の標本が私たちに語るものは色や光沢の美しさや形の珍しさだけではないことを知ることができました▼虫の詩人といわれたファーブルは『昆虫記』に書いています。「虫の世界はあらゆる種類の思索をもっとも豊かに蔵している」(集英社)と。そして、自分が生まれ変わったとしても、「虫の世界の興味はとうてい汲(く)みつくすことができないであろう」。





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