2010年8月30日(月)「しんぶん赤旗」

主張

ホメオパシー

「科学の無視」は危うすぎる


 日本学術会議が、民間療法の「ホメオパシー」について、「治療効果は科学的に明確に否定されてい」るとし、「『効果がある』と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為」だとする会長談話を発表(24日)したことが、話題を呼んでいます。

 談話は、「ホメオパシー」が医療関係者のなかで急速に広がり、「ホメオパス」という施療者の養成学校までできている現状を「科学の無視」と批判しています。日本の科学者を代表する公的機関が疑似医療行為の排除を求めたことは、重く受けとめる必要があります。

際立つ荒唐無稽ぶり

 「ホメオパシー」は、いまから200年ほど前、まだ近代的な医療が確立する以前に、ドイツ人医師が生み出し、欧米各国に広がりました。病気と似たような症状を引き起こす物質を少しずつ使い、「自然治癒力」を触発するという触れ込みです。

 投与する「レメディー」(治療薬)は、「ある種の水」を含ませた砂糖玉です。これでアレルギーも精神病も、がんも治せるという魔法のような話です。この「水」は、植物、昆虫、鉱物を極端なまでにくり返し薄めてつくります。実際には元の物質など存在しない「ただの水」でしかありません。

 それでも効果があるという論者は「水が、かつて物質が存在したという記憶を持っている」といいます。「科学的な根拠がなく、荒唐無稽(むけい)としか言いようがない」(談話)説明です。

 有名タレントが公的な場で「ホメオパシー」を推奨する発言をするなどの動きもあり、「自然志向」とあいまって流行現象が起きています。昨年10月には、頭蓋(ずがい)内出血を防ぐためのビタミンKの代わりに「レメディー」を与えられた生後2カ月の女児が死亡し、投与した助産師を母親が提訴する問題も起きています。

 「ホメオパシー」は、当然受けるべき通常の医療から、患者を遠ざける危険性があります。談話がいうように、いまのうちにこれを排除する努力が行われなければ、「自然に近い安全で有効な治療」という誤解が広がり、欧米のような深刻な事態になりかねません。

 重い病に苦しむ人ほど、さまざまな民間療法、健康食品などに救いを求めるものです。わらにもすがりたい切ない思いからの行動が、結果として、効果が得られないだけでなく、受けるべき治療を遅らせ、そのうえ大きな経済的負担まで強いられるというのでは、患者にとっても、関係者にとっても悲劇です。科学を無視するほど危ういことはありません。

政権の姿勢が問われる

 この問題では、民主党政権の姿勢も問われます。

 鳩山由紀夫前首相は1月の施政方針演説で、西洋医学と伝統医学の「統合」の推進を表明しました。長妻昭厚労相は国会答弁で、この伝統医学の中に「ホメオパシー」を位置づけることを明言しました(1月28日、参院予算委員会)。さらに厚労省内に2月に設置された「統合医療プロジェクトチーム」も、「ホメオパシー」を、今後の検討の対象として明記しています。

 日本学術会議が会長談話でいましめた内容に、文字通り逆行するものです。「ホメオパシー」を政府の名で公認し、市民権を与えることへの懸念を禁じえません。





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