2010年8月23日(月)「しんぶん赤旗」
主張
生物の多様性
豊かな自然まもる共同強め
カエルやメダカなどかつては見慣れた生き物が、私たちの周りから次第に姿を消しています。地球上に暮らす生物は約3000万種。その豊かさが開発や地球温暖化などに脅かされています。生物の多様性を損なえば、環境変化への対応が困難になり、資源として利用できなくなるなど、人類の生存にも重大な影響を与えます。
国連が定めた「国際生物多様性年」の今年、多様性をまもる取り組みを前進させる国際的な合意と共同を強めねばなりません。10月に名古屋で開かれる国際会議(生物多様性条約第10回締約国会議=COP10)を生かすことです。
目標達成に失敗
「絶滅危ぐ種をめぐる状況は悪化している」「(湿地など生息地は)世界の大部分で面積の減少と分断化が進行している」。国連生物多様性条約事務局は5月、生物多様性が「遺伝子、種、生態系のすべての要素で失われ続けている」と警鐘を鳴らしました。
生物多様性条約は熱帯雨林の急減などを背景に、1992年にブラジルで開かれた地球サミットで、地球温暖化を防ぐ気候変動枠組み条約とともに採択されました。10年後、南アフリカでのサミットは「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に抑える」とする国際目標を掲げました。世界はその達成に失敗しています。
COP10では、次の10年間とともに長期の目標も議題です。多様性の保全に有効な目標を決めるとともに、達成に向けた取り組みへの合意を得ることが必要です。
遺伝資源の利用と利益配分のルールづくりも焦点の一つです。新薬や食品、化粧品などの開発には動植物や微生物の利用が欠かせず、未知の遺伝資源の発見競争が盛んです。利益は従来、開発した先進国の企業が独占しましたが、資源を提供する側の途上国にも公正に配分されるべきです。
7月にカナダで開かれた準備会合では、植民地時代の先進国による資源収奪の歴史もからんで、先進国と途上国とが対立しました。先進国は途上国の権利を認め、貧困を克服する大胆な措置をとる必要があります。途上国にも協力を強める姿勢が求められています。
日本は議長国としてCOP10の成功に大きな責任を負っており、合意とりまとめに積極的に動くべきです。しかし、国内を見ると、政府が生物多様性の保全に熱心とはとてもいえない状況です。
生息環境の保全がとりわけ重要です。不要なダムや道路の建設、干潟の埋め立てなど大型開発による環境破壊をやめることが不可欠です。諫早湾干拓事業の開門調査を速やかに行い、有明海の再生に踏み出すべきです。
政府は、沖縄県宜野湾市にある米軍普天間基地の「移設」先として、同県名護市の辺野古・大浦湾を埋め立てようとしています。この海域は新種の生物が発見される豊かな海です。絶滅が危ぐされるジュゴンやアオサンゴの生息地を破壊することは許されません。
生息環境の保全を
政府は3月、「自然共生社会」を構築するとした「生物多様性国家戦略2010」を決定しました。しかし、具体策は理念普及が中心で、理念倒れになりかねません。戦略というにふさわしいだけの、生物多様性を保全する実効ある手だてをとるべきです。
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