2010年8月21日(土)「しんぶん赤旗」
主張
ソマリア沖「給油」
軍事強化では海賊なくせない
政府は9月召集見通しの臨時国会に、アフリカ北東部のソマリア沖で海賊対処にあたっている外国の軍艦に給油支援を行うための新法を提出する構えです。自民党もインド洋での給油支援復活とともにソマリア沖での給油支援のための新法を提出する方向です。
日本は昨年6月成立した「海賊対処」派兵法にもとづき「海賊対処」活動を実施しています。しかしこの法律では外国の軍艦に給油支援はできません。そのため給油新法をつくりアメリカなどの軍艦に給油支援をすることで、日本の海賊対処活動での貢献ぶりを誇示するのが政府の思惑です。
「状況は改善していない」
もともとソマリア沖での給油支援は北沢俊美防衛相が昨年10月以来くりかえしのべていたものです。11月の日米首脳会談でオバマ大統領に伝達するために政府内で調整を急いだ経緯があります。インド洋での給油支援活動をやめたことによるアメリカの怒りを和らげるのが狙いでした。その後、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)が日本にソマリア沖での給油支援要求を強めてきたため、政府は給油新法の具体化にふみきることにしたのです。
アメリカなどが日本に「給油支援」を要求するのは、海賊がソマリア沖・アデン湾だけでなく、セーシェル諸島海域などのより遠方の海域で出没するようになり、それに対処するための洋上給油が必要になったからです。洋上での「給油支援」によって軍艦は寄港して給油する手間がはぶけます。しかし洋上給油で海賊対処活動を強化しても海賊問題は解決できないのはあきらかです。
2008年の海賊取り締まりを求めた国連安保理決議以来、ソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動に参加する国は20カ国、40隻をこえる軍艦と航空機が動いています。アメリカは昨年海賊対処専門の多国籍艦隊まで創設しました。日本の自衛隊も2隻の護衛艦とジブチを拠点とするP3C対潜哨戒機3機を派遣しています。
多くの軍艦や航空機が目を光らせているのにソマリア沖・アデン湾での海賊による被害は増えています。08年111件だったものが09年には217件に倍加し、「今年に入っても状況は改善していない」(6月現在)と外務省もいうほどです。
しかも海賊対処は、インドの軍艦がタイ漁船の母船を砲撃・撃沈させ、アメリカの海軍特殊部隊が人質救出の際に海賊3人を射殺し、イージス艦が海賊の母船を撃沈する事態をつくっています。海賊も「報復」を宣言し、軍事的な報復の連鎖の広がりは深刻です。
日本は「海賊対処」活動に加え、「給油支援」までして軍事的な悪循環を助長すべきではありません。軍事力でしか対処できないという考えを根本から改めるべきです。
経済復興こそ解決の道
ソマリア沖で海賊が出没するのは、ソマリアが政府のない状態で、経済活動もままならず、人々はまともな生活ができないからです。ソマリアの復興こそ海賊問題の解決にとってのかなめであるのは明白です。軍事対応優先では問題解決につながりません。
憲法9条をもつ日本は、国際社会にもはたらきかけてソマリア復興のための政治的・外交的努力に力をつくすべきです。