2010年8月14日(土)「しんぶん赤旗」
機密費のヤミ浮き彫り
担当官僚出廷、使途明かさず
「情報収集に支障」
大阪地裁
不透明な使途が問題になっている内閣官房機密費の実態を知る現役の内閣総務官が証言するという注目の裁判が13日、大阪地裁でおこなわれました。証言からは年間約15億円にのぼる公金を隠すヤミの深さが見えてきました。
裁判官「具体的に説明を」
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証人になったのは千代幹也(ちしろ・みきや)氏(57)です。
内閣総務官室で、2006年以降、機密費の執行と管理にたずさわっています。
裁判は「政治資金オンブズマン」が、機密費の使途の情報公開を非開示とした国の処分取り消しを求めたものです。安倍晋三官房長官(当時)時代の支出を記録した支払明細書と出納管理簿など5種類の文書が対象です。
千代氏は、「(日時や金額であっても公開してしまえば)いろいろな憶測の報道がなされ、これから報償費(機密費のこと)が使いにくくなり、情報収集活動に支障がでる」と主張。政府の機密費の秘密体質を合理化しました。
証言や裁判を通して機密費には使途に応じて大きく三つの項目があることがわかっています。
(1)「政策推進費」官房長官自らが管理し相手方に支払うお金。領収書がなくていい。
(2)「調査情報対策」情報収集などの対価として、支出したり、そのための会合の経費。
(3)「活動関係費」慶弔費、交通費、贈答品や書籍の購入費用など、上記二つの活動を支援する費用。
証人尋問では、原告側の代理人が「政策推進費」を渡す対象などを質問。「国会議員には配らないなどの運用基準はあるのか」と質問。千代氏は「その人の属性(立場・職業など)によって払わないということは決めていない」と答え、「(政治家に渡したかどうかは)個別具体的な使途の話になるので答えない」と述べました。
原告側は政治資金規正法21条に違反すると指摘しました。
また原告側は「渡した人に税の申告を助言するのか」などと質問。回答を避けた千代氏に「申告しなければ脱税になる。機密費のコンプライアンスにかかわる問題だ」と批判しました。
「日時や金額がわかるだけでも報道などで憶測を呼び、活動に支障がでるおそれ」をくり返し主張した千代氏。裁判官からも「どんな支障がでるか、具体的に説明して」「使途を明らかにできるお金だけで活動できないのか」との質問が出ました。また書籍の購入費用や日時も明らかにしていない点について、裁判長が「買ったことが明らかにできない本とはどんな本か」と聞くと、千代氏は「専門的な本もある」と歯切れ悪く答え、「著者がだれかということもふくめて特別な意味を持つこともある」と述べました。
「なぜ隠すのか」 原告ら証言批判
裁判後、原告で政治資金オンブズマン共同代表の上脇博之神戸学院大学教授と弁護士は、大阪地裁内で会見を行いました。
千代幹也内閣総務官の証言について、阪口徳雄弁護士は「総額はどれくらいで、どんな用途に使ったか、明らかにしたところでなんら問題はない。隠す理由は『支障をきたすおそれ』だけしかない。『おそれ』を持ち出して、なんでも隠そうという理屈だ」と批判しました。
上脇さんは「情報公開してもスミ塗り文書どころか、紙一枚出てこなかったが、訴訟の中で、新たな事実もわかるなど、貴重な前進があった。支出した月日などがわかることが国益をそこねるとは思えず、勝訴の判決を期待する」とのべました。