2010年8月11日(水)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
NHKが放送している韓国ドラマ「イ・サン」は、朝鮮の22代王・正祖の、波乱に満ちた生涯を描きます。77回の大長編▼舞台の一つが、トファソです。図画署。国のさまざまな行事を、絵に記録する役所です。王の即位や政事のもようを描くだけではありません。宮中の宴会や役人の採用試験。ときには、むほんをはたらいた罪人の処刑にまで立ち会います▼ドラマでは、図画署で働く女性と王が幼なじみ、二人の愛の行方もみどころです。それはさておき、実際に朝鮮王朝は、国の行事を絵と文で記録し続けました。「朝鮮王朝儀軌(ぎき)」とよばれます。ひもとけば、時々の政治・経済・文化・風俗のありさまが分かります▼大切な資料というにとどまりません。すぐれた画家たちの手になる絵は、芸術品でもあります。ユネスコ(国連教育科学文化機関)は3年前、世界に類をみない記録だと認め、世界遺産に登録しました▼しかし、儀軌は不幸な運命をたどってきました。19世紀半ば、侵入したフランス軍が奪います。王のために編んだ特製の儀軌でした。20世紀、韓国を植民地にした日本がもちだし皇室の手に渡ります。宮内庁が日本共産党の笠井亮議員に示した資料によると、その数81種167冊▼併合100年にあたっての首相の談話は、「儀軌」などを韓国に「お渡ししたい」といいます。「返す」といわず「渡す」。まだ大日本帝国の影をひきずっているらしい。「儀軌」の返還は、民族の歴史の記録を奪われた韓国の人々の悲願です。