2010年8月6日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「六日午前八時ぞ蝉よ鳴きやむな」。詩人アーサー・ビナードさんの俳句です。先月、NHKの「俳句王国」で披露しました▼原爆の落とされた時刻が近づく。広島の平和公園では、セミたちの大合唱。彼らに負けず、人々の「核兵器廃絶」の声をもっともっと大きく。そんな気持ちを込めて詠みました。アーサーさんは、アメリカ・ミシガン州生まれです▼被爆から1カ月たらずの9月初め。アメリカの新聞や放送の記者が、続々と広島・長崎を訪れました。彼らは記します。「(広島は)世界中の荒廃した町が一カ所に集まり、広がったようだ」「長崎はつぶれた墓場である」…▼しかし記事の多くは、歴史に残る第一報に似つかわしくないあつかいを受けます。無視されたり、紙面の片隅に追いやられたり、編集でゆがめられたり。とくに、時間がたっても人命を日々奪ってゆく原爆症についての報道は、とことん消され伏せられました(繁沢敦子『原爆と検閲』)▼当時のトルーマン大統領は、日本時間の8月10日に語っていました。「戦争を早く終わらせるため、何千何万ものアメリカ青年の生命を救うためにそれを使った」と。米政府は、人類史上かつてない生き地獄の実相をよく知らされていない国民に、原爆投下は正しかったと思い込ませてきました▼あの日から65年のきょう、駐日米大使が初めて広島平和記念式典に参加します。被爆者はじめ、鳴きやまないセミのように草の根から行動してきた人々が、世界を変えつつあります。