2010年8月2日(月)「しんぶん赤旗」

主張

司法修習給費制廃止

経済的負担で道を閉ざすな


 法律家としての人生の出発点で過大な借金を背負う。労働、環境など「金にならない」事件を受けたがらない弁護士が増える。金持ちしか法律家を目指すことができなくなる―数年後に、こんな事態が問題になるかもしれません。

 司法修習生に給与を支払う「給費制」を廃止し、必要な資金を貸し付ける「貸与制」が今年11月から実施されようとしています。日本の法曹養成制度を大きくゆがめると反対の運動が広がっています。

300万円もの借金

 裁判官、検察官、弁護士のどの道へ進むにしても、法律家として仕事をするためには、司法試験合格後の1年間、裁判所や検察庁、弁護士事務所などで実務研修を受けなければなりません。これが司法修習です。

 これまでは、司法修習生全員に国家公務員の初任給並みの給与が支払われてきました。ところが、2004年12月の国会で、日本共産党だけが反対するなか、裁判所法一部「改正」が成立しました。修習生の給与を廃止し、申請をした者に生活資金を貸し付ける制度に切り替えることに決まり、その施行期日が今年11月とされました。

 貸与額は月23万〜28万円。年間では276万円から336万円になり、すべて返済が求められます。修習生は、修習に専念する義務を負っており、アルバイト等は禁止されています。資力があって、貸与を受ける必要がない人以外は、新たに300万円もの借金を余儀なくされることになります。

 これはあまりに過酷な負担です。新司法試験制度で、法曹を志す人は4年制大学を卒業した後、法科大学院で原則3年間学び、試験に合格しなければなりません。日弁連の調査では、現状でも修習生の半数以上が奨学金などの借金を抱え、その平均額は318万円、最高では1200万円の人もいます。これに300万円もの新たな借金が加算されるのでは、「弁護士になって最初の仕事は自分の破産処理かもしれない」という笑えぬジョークも語られるほどです。

 法曹人口の増加で、修習を終えても就職先が決まらない人も増えています。経済的負担があまりに重く、将来へのリスクも大きいことが嫌われ、法曹志望者が減少し続けていることも見逃せません。

 戦後の日本で、司法修習生への給費制が導入されたのは、未来の法曹に自らの公的使命を自覚させること、さらに、法曹の世界に貧富の差を持ち込まないことを目指した国民の知恵でした。

 04年の法「改正」は、こうした制度の原点を顧みることなく、ただ財政の都合で「受益者負担」の原則を持ち込んだものです。

資力のない人にも

 しかし、法律家の仕事を「個人的な利益のためのビジネス」と同列視する受益者負担論は根底から誤っています。司法修習生は、明日の「権利の守り手」です。資力のある人しか法律家になれない制度で、庶民の感覚がわからない人が法曹の多数を占めるというのでは、結果的に国民の権利が守られず、損なわれることになります。

 日本共産党は、法曹養成制度が憲法と人権をまもり国民に信頼される法曹を育てるものとなるよう、その充実を求めています。そうした国民の願いに逆行する「給費制」廃止はやめ、秋の国会で法改正と予算措置を実現すべきです。





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