2010年7月29日(木)「しんぶん赤旗」

主張

最低賃金

引き上げを成長戦略の柱に


 今年度の最低賃金引き上げの「目安」を決める中央最低賃金審議会の議論が合意にいたらず、決着が8月にずれ込む異例の事態になっています。最低賃金法にもとづく最低賃金は、中央最賃審の「目安」答申をうけ都道府県ごとの審議会で引き上げ額が決まるしくみで、このままでは新賃金の実施が10月中旬以降になりかねません。

まともに働いても

 最低賃金の大幅引き上げは、日本の経済と社会の「異常」をただす最優先の課題として、その重要性が高まっています。

 現在の全国平均時給713円という最低賃金は、まともに働いても最低限の生活が維持できないものです。労働者の生活の安定を目的にした最低賃金法が、逆に労働者を低賃金の苦境に追い込むことになっている現実を、早急に解消しなければなりません。

 異常な低賃金などで年収が200万円以下の「ワーキングプア」(働く貧困層)が1000万人を超えています。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本では貧困層の8割が働いており、各国平均の63%に比べて異常に高い「ワーキングプア大国」というべき状態になっています。正社員を非正規雇用に置き換える財界戦略によって、労働者の賃金のいっそうの低下が懸念されています。

 厚生労働省の調査でも、最低賃金が生活保護費を下回っている「逆転現象」が北海道、東京、神奈川、大阪など12都道府県に及んでいることは重大です。まともに働いて受け取る賃金が生活保護費を下回る状態は、労働者の意欲、向上心をなえさせ、社会にとっても企業にとっても損失です。経営側は、景気の先行き不透明を理由に「逆転現象」解消の先送りを主張しますが、もっともかい離が大きい神奈川でもわずか47円であり、即刻解消すべきです。

 いま欧米の先進諸国といわれる国では、最低賃金を貧困と格差の是正、経済の成長戦略の中心に位置づけて大幅に引き上げています。イギリスでは、1999年に全国一律最低賃金制をつくって引き上げに努力し2009年の1138円まで61・1%もの大幅アップを実行しました。経営側は急激に上げると失業者が街にあふれると抵抗しましたが、イギリスの失業率はほとんど変わりませんでした。

 貧困と格差の広がりが深刻なアメリカでも07年に法律をつくり、時給5ドル15セントを段階的に09年に7ドル25セントまで引き上げました。購買力平価に換算して日本円で949円です。OECDの調べでも、いま先進主要国は、全国一律最低賃金制度で、時給1000円以上が当たり前になっています。

時給1000円以上

 日本でも世界の流れをふまえて、財界系シンクタンクのなかからも「最低賃金引き上げは最大の成長戦略だ」(富士通総研)とする提言が出るようになっています。これらの主張に共通しているのは最低賃金の引き上げを貧困対策と内需拡大を同時に実現できる方策として提起していることです。

 もちろん引き上げによって困難が予測される中小企業への助成や振興策は必要です。しかし、時給1000円以上という“国際標準”に近づける「目安」額を答申してこそ、全国一律最低賃金制を確立し、「世間並み」の国になる第一歩になることができます。





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