2010年7月25日(日)「しんぶん赤旗」
主張
後期高齢者医療制度
国民裏切る「別勘定」の存続
厚生労働省が23日、後期高齢者医療制度「改革」の骨格案をとりまとめました。
それによると、後期高齢者医療制度に加入させられた1400万人のうち、サラリーマンや被扶養者の約210万人は企業の健保組合など被用者保険に入ります。
それ以外の約1200万人に上る高齢者は国民健康保険に加入させ、高齢者医療費の「1割相当」の保険料負担を課す「別勘定」の制度に組み込みます。年齢区分を65歳に引き下げることも「引き続き検討する」としています。
「うばすて山」の根源
後期高齢者医療制度は75歳以上の高齢者を別の制度に移して医療費を別勘定にし、その一定割合を高齢者に負担させる仕組みです。負担割合は当初は1割で、高齢化や医療費増加に合わせて2年ごとに引き上げます。実際に制度開始から2年後の今年、多数の都道府県で保険料が値上げされました。
年齢で区分する別勘定の制度をつくったのは「医療費が際限なく上がっていく痛みを、後期高齢者が自分の感覚で感じ取っていただく」(厚労省)ためです。現役世代に重い「支援金」を課して高齢者医療費を負担させる仕組みにしたことで、現役世代からも医療費抑制の圧力をかけさせようという狙いも明らかです。
お年よりの医療費を別勘定にし、さんざん肩身の狭い思いをさせて無理やり医療費を抑制する―。ここに、お年よりの人間としての尊厳を踏みにじり、長寿を喜べないような立場に追い込んだ後期高齢者医療制度の非人間性の根源があります。
ところが厚労省は「高齢者の医療費に関する負担の明確化が図られたこと」を後期高齢者医療制度の「利点」と評価し、別勘定の仕組みを温存しようとしています。民主党の山井和則厚労政務官も「医療費抑制はある程度しないと財政的にもたない」と、医療費抑制の目的を認めています。
現行制度の加入者のうち8割以上の高齢者を、従来と同じような別勘定の制度に入れて医療費の抑制を図る―。これでは後期高齢者医療制度の廃止どころか、形を変えた「うばすて山」の存続というほかありません。仮に対象年齢を65歳に引き下げることになったら、それこそ「うばすて山」の拡大です。
人間らしい医療制度に
民主党は後期高齢者医療制度を廃止して老人保健制度に戻すと公約していたのに、政権に就いたとたん、「新制度」をつくる4年後まで廃止を先送りしました。その「新制度」が「うばすて山」の存続というのは二重に許せません。民主党は「新制度」をつくるまでの負担軽減策も約束していたのに実行せず、多くの都道府県で保険料が引き上げられました。
厚労省案では大多数の高齢者は国保に組み込まれますが、もともと国保は失業・廃業、不安定雇用の増加で財政の悪化が深刻です。国庫負担の引き上げは急務であり、民主党も「9000億円の予算措置」を約束していたのに、これも守っていません。
国民に対する何重もの裏切りは許せません。後期高齢者医療制度は速やかに廃止し、元の老人保健制度に戻した上で減らされ続けた国庫負担を抜本的に増額して、人間らしい高齢者医療制度に転換することが求められます。