2010年7月21日(水)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「『ねェ、修さん』と杉村さんが声をかけると『なァに、春さん』と甘い声で応える滝沢師匠。…振り返れば宇野重吉さんと芥川比呂志さんがいる」▼1954年。三つの劇団合同の、チェーホフ「かもめ」のけいこ場風景です。劇団民藝の田口精一さんが、書きとめています。田口さんら若い劇団員の目に、戦前の弾圧をくぐり抜けてきたそうそうたる先輩たちがまぶしく映りました▼6年後、名優たちは舞台の外でも演劇界をひっぱります。60年安保闘争。田口さんの文章を収める「安保体制打破新劇人会議」の50周年記念誌が、当時の熱気とはりつめた日々のようすを伝えます▼連日、大勢が行進した演劇人。臨機応変の演説で、学生集団の暴走を抑える“政治家”ぶりを発揮した宇野さん。行進が右翼団体に襲われた時、事件の対策委員長をみずから引き受けた杉村春子さん▼安保阻止の新劇人会議の議長団の1人、滝沢修さんは、人間が戦争を止めない現実への歯がゆさを口にしながら語ったそうです。「でも、人間には夢がある。動物にはない夢がね。挑戦する夢が…」▼新劇人会議は、声明で誓いました。「芸術の美しい自由な花園を荒らす」安保体制の終わりまでたたかい続ける、と。50年後、記念誌で若手演劇人が話し合っています。「安保」を身近に感じないで育った、彼ら彼女ら。おおよその共通点を見いだしたようです。戦争をなくそうと行動するか、あきらめるか、大きな違いだ―。滝沢さんの「挑戦する夢」に通じます。