2010年7月18日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
時がたっても「見てよかった」という実感が薄れない映画とは、どんな作品だろう。つらつら思うに、想像をたくましゅうさせる映画はたいてい当てはまります▼公開中の「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」を、繰り返し思い出します。ケンタとジュンは、児童施設で仲良く育ちました。仕事は「はつり」。ハンマーなどで、解体現場の壁をひたすら壊します▼重労働に低賃金。彼らをいじめる上司もいる。ある夜、2人は上司の愛車をたたき壊し、車で北へ走る。ケンタの兄が入っている網走刑務所へ。兄と面会し、ケンタは問う。「ぶっ壊したら新しいセカイがあるんでしょ」▼むなしい答えが返ってくる。もう2人に行き場はない。2人と旅する女性が、人の愛に飢えているカヨちゃんだ。彼女は、2人に見下され置き去りにされても後を追う。しかし、2人は救いのない最後を迎える。残されて、歩き始めるカヨちゃん。目の前に、道路の上り坂のてっぺんがみえる…▼坂の向こうに、どんなセカイがあるのやら。時代の深い閉塞(へいそく)感と、けれども生きようとするカヨちゃん。「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」の「国」とは? ともに旅する3人だけの、共同体かもしれません。あるいは、3人の人らしく生きる道を閉ざしてきた国、この日本国とも読めます▼さらに、3人が心のどこかで探していた国。「これが自分たちの国」といえる、希望をつかめる国です。そこへ行き着くため、私たちもカヨちゃんと旅を続けようと思うのです。