2010年6月14日(月)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
アジサイが咲き始めました。街なかを彩るアジサイが道行く人の心をいやしますが、次の句は日本の原風景をしのばせます。「田に水を張って紫陽花あかりかな」(山上樹実雄)▼わが国原産で、日本が世界に誇れる花木、アジサイ。しかし、日本人が冷たくあしらった時期もありました。万葉の時代から人々が庭木として愛(め)でていたのに、なぜかのちにうとまれたのです▼江戸時代は、花の品種改良が相次ぐ、空前の園芸人気の世でした。そのころにも、みるべきアジサイの品種改良はなかったそうです。園芸研究家の柳宗民さんによれば、緑・白・青・薄赤と色変わりするので「節操のない花」と嫌われた、との説もあります▼ところが、江戸時代末に日本へ来たドイツ人学者シーボルトらが、ヨーロッパへ持ち帰ります。遠い異郷で欧州の人好みの華やかな花に改良されたアジサイは、時が大正時代に下り日本に入ってきました。もとは日本生まれの花木が、「西洋アジサイ」の名で▼日本生まれなのに、海外で知られるまで日本人が値打ちを認めず、あるいは忘れる。芸術の分野でも、よく聞く話です。同じようには語れないけれど、政界や報道界には、わが憲法にもとづく自立した国づくりに誇りをもてない人もいます▼彼らは、日本が米軍基地を置きアメリカのトラの威を借りないと、ほかの国から軽んじられ一人前とみられないかのようにいいます。実は逆なのに―。アジサイ花の不思議な色に誘われ、話がとびはねてしまいました。