2010年6月12日(土)「しんぶん赤旗」
主張
菅首相所信表明
都合の悪いこと語らないのか
政権発足からわずか2日で郵政法案をめぐって国民新党代表の亀井静香氏が閣僚を辞任する混乱のなか、菅直人首相の就任後初の所信表明演説を聞きました。
鳩山由紀夫前首相が米軍普天間基地問題をめぐる公約違反と、「政治とカネ」の問題で辞任に追い込まれたのを受けての政権です。菅首相がどう反省し、事態をどう打開しようとするのかが問われました。首相の演説が「挫折を乗り越え、信頼を回復する」というだけで具体的に踏み込まず、都合の悪いことにはふれないという態度に終始したのは、反省と責任に欠けるというほかありません。
重大性が感じられない
鳩山前首相が辞任に追い込まれた問題が、「辞任という形で自らけじめがつけられた」というほど、軽々しい問題でないのは明らかです。菅首相の演説には、まずその重みが感じられません。
米軍普天間基地をめぐる問題では、鳩山氏だけでなく民主党全体が昨年の総選挙での公約違反が問われています。沖縄県民や徳之島住民の総意を踏みにじった、まさに民主主義の根幹にかかわる大問題です。その問題を前首相の辞任で「けじめ」がついたかのように扱うだけでなく、菅氏自身、公約に違反し民意を踏みにじった「日米合意を踏まえつつ」進めるというのですから、この問題での反省のなさと居直りは明らかです。
しかも菅氏は演説で日米合意に関連して沖縄の「負担軽減」をいうだけで、県内「移設」を県民にどう説明するのかさえ言及しませんでした。都合の悪いことは語らない態度です。日米合意後も、県知事をはじめ沖縄の自治体も県民も県内「移設」に反対しています。それを承知で閣内からは、岡田克也外相や北沢俊美防衛相が県民の同意がなくても日米合意は進めると発言しています。首相が具体的にふれないのは閣僚の発言を認めているのと同じです。
「政治とカネ」についての問題も、国民の信頼を裏切った重大問題です。鳩山前首相や小沢一郎前民主党幹事長の「政治とカネ」の問題は、2人が辞めればそれで「けじめ」がついたといえるような問題ではなく、疑惑を解明してこなかった民主党自身の自浄能力のなさと、今後どう腐敗政治を一掃していくのかが問われています。
菅氏の演説は、鳩山氏が辞任した事実にふれるだけで、今後どう説明責任を求めていくのか、小沢氏に対する国会での証人喚問などの要求に、民主党としてどう応えていくのかさえふれません。まさに、都合の悪いことには、ほおかむりする態度です。
国会での徹底追及が必要
菅氏は演説で、経済・財政・社会保障一体の「立て直し」を強調し、超党派の「財政健全化検討会議」の開催を提唱しました。しかしその中身も、「税制の全体像を描く」というだけで、焦点の消費税についてはふれません。新政権になってからも野田佳彦財務相や前原誠司国交相らが消費税を増税し法人税は減税するとの発言を重ねています。菅氏が超党派の「検討会議」をいうのも、消費税増税を掲げる自民党と連携して増税を推進する意図が透けて見えます。
都合の悪いことは語らず押し通すというのは、まさに権力政治の発想です。参院選の審判のためにも、国会での徹底追及が必要です。