2010年6月11日(金)「しんぶん赤旗」

主張

外務省報告書

「密約」隠しに手を貸すだけか


 鳩山由紀夫前首相の辞任や菅直人首相の指名が注目を集めた4日、外務省は外交文書の「欠落」について調査報告を発表しました。

 報告は、「日米密約」を調査した3月の有識者委員会報告書が、「当然あるべき文書がみつからない」などと指摘したのを受けて調査してきたものです。しかし「記憶にない」という一部の条約局長経験者らの言い分をうのみにして、「廃棄された可能性がある」としただけで、誰が「廃棄」を指図したのか、その経過も責任も明らかにしていません。こんなずさんな調査では、「密約」隠しに手を貸すといわれるのが関の山です。

「記憶がない」をうのみ

 1960年の日米安保条約改定時の核持ち込みの「密約」や72年の沖縄返還時の核再持ち込みや補償費肩代わりの「密約」など、「日米密約」の調査は鳩山政権発足時に政府が約束したものです。ところが外務省の調査と、それをもとにした有識者委員会の報告書は、調査した四つのうちはっきり密約と認めたのは一つだけで、「核密約」については、文書はあったが日米で認識が一致していなかったという証言もあるとするなど、残りは密約と認めませんでした。

 安保改定時に当時の藤山愛一郎外相とマッカーサー駐日米大使が署名した「討論記録」は、事前協議もなしに、核兵器を積載した艦船や航空機が日本に寄港・通過する権利をアメリカに認めた、文字通り核持ち込みの密約です。日米両政府が結んだ秘密条約です。

 有識者委員会の報告書のあと、日本共産党の不破哲三前議長が「核密約」が結ばれるまでの新たなアメリカの外交文書も示して日米間に認識の違いなど起こりえなかったことを明らかにしました。

 政府も志位和夫委員長が提出した質問主意書に対する答弁書で、「討論記録」が「不公表とすることとして両政府間で作成された合意文書」だと認めました。密約と認定しなかった、有識者報告書の不当性は明らかです。

 「密約」を密約と認めない不当な有識者報告書が公表される過程で、外務省による外交文書の「欠落」問題が明らかになったのは重大です。有識者報告書のあと国会での参考人質疑で、99年当時の東郷和彦条約局長は、資料をまとめメモをつけて後任の局長に申し送ったのに、存在しないとされているのはおかしいとのべました。

 今回の外務省の報告で後任の谷内正太郎条約局長(当時)は、東郷局長からの「引き継ぎ」は認めたものの、「メモは見たこともない」「引き継いだ文書には目を通さずすべて課に下ろした」などとのべています。外務省がこうした発言をうのみにし、それ以上の調査も行わず、責任も問わなかったのは重大です。文書の廃棄は組織的に行われた疑いもあります。事実も十分調査せず責任も明らかにしないで問題の幕を引こうという外務省の姿勢は、歴史を偽り、密約隠しに手を貸す重大犯罪です。

密約は密約と認め破棄を

 外務省が外交文書を廃棄しても密約が密約でなくなるわけではありません。日本政府が密約と認め、破棄の手続きをとらなければ、密約は残ったままです。

 核密約など日米密約は、安保条約の根幹にかかわるものです。安保改定から50年のことし、あいまいに済ますことは許されません。





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