2010年6月4日(金)「しんぶん赤旗」
主張
「産業構造ビジョン」
財界の「お先棒」が成長阻む
経産省が1日発表した「産業構造ビジョン」は産業構造とビジネスモデル転換の支援、何より法人税減税が必要だと主張しました。
日本は過去10年間、先進国で唯一の「成長の止まった国」「国民が貧しくなった国」です。原因は正社員を非正規に置き換え、下請け単価を買いたたいて利益を増やし、過剰な貯蓄(内部留保)を積み上げた大企業の行動です。
国民が生んだ富を囲い込む大企業の行動を改めさせない限り、健全な成長の道は開けません。
正しい分析も投げ捨てて
政府も半年前の「新成長戦略」では、富を「選ばれた企業のみ」に集中させたために、中小企業の廃業を増やし所得の低迷を招いたと正しく分析していました。
ところが同ビジョンは、日本の労働分配率は「先進国の中で最も高い」として、「企業と家計」の所得再分配は無理だと決め付け、半年前の分析を投げ捨てました。
そこに掲げた労働分配率のデータの出所は2008年版「経済白書」です。白書は経産省が根拠にしたデータとは別の比較も示しています。それによると、同ビジョンの議論とは正反対に、日本の労働分配率は先進国で「最低」水準となっています。
見過ごせないのは高い労働分配率を続ける中小企業と、低い労働分配率をさらに低下させている大企業との格差です。可能な限り労働者に還元しようという中小企業に対して、大企業は非正規雇用を「使い捨て」にし、正社員にもリストラ・賃金抑制を強いて分配率を抑えています。必要なのは、大企業による雇用と下請けへの犠牲の転嫁をやめさせて、家計の所得減少と中小企業の経営難の大もとを取り除くことです。
同ビジョンの目玉は財界が求める法人税減税であり、法人税率引き下げで経済も成長し、税収も増えると力説しています。しかし、日本では法人税率を連続で引き下げてきたにもかかわらず、経済は長期低迷に陥っています。地方税を含む法人税収は累積で200兆円もの減収です。
減税しないと企業がますます海外に出て行くとも主張していますが、これも財界の宣伝そのままです。実際に個々の企業の声を聞くと、海外と日本の公的負担を比べて日本が不利と感じることは「特にない」という企業が7割以上を占めています。法人税を10%減税しても日本に「回帰しない」と答えた企業は8割近くに及びます(東京都の調査)。
多くの企業が求めているのは、日本の内需の立て直しです。
現実に反する議論や主張は財界の「お先棒」担ぎというほかありません。こんな報告書は、まさに税金の無駄遣いです。財界のちょうちん持ちの政治こそ日本経済の健全な成長への最大の障害です。
大企業にもプラスになる
雇用と中小企業を守るルールを作り、大企業に応分の負担を求めて暮らしの財源を生み出す改革の効果は、「企業と家計」の所得再分配にとどまりません。内需を根本から温めて正常な経済循環を実現し、日本経済の長年の課題である自律成長への道を開きます。
内需が息を吹き返すことは大企業にとっても大きなプラスです。有害無益な法人税減税と違って、極めて効果的に日本経済の魅力を高めることができます。