2010年5月31日(月)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
1970年大阪万博のシンボル「太陽の塔」の前面には、二つの顔がついています。おなかあたりの真ん中にある灰色の面はなにやら怒っているようで、目をギョロリとさせた作者、故岡本太郎の表情に似ています▼てっぺんの金色の面は、まん丸な目で遠くをみつめるような表情です。大昔の人形の顔を思い起こします。縄文時代の土偶です。いや、おなかの太郎さん似の方も、土偶の顔にみえなくもない…▼岡本さんは1952年、東京国立博物館で縄文土器をみて衝撃をうけました。「これは、なんだ」。考古学の資料にとどまっていた縄文の土器や土偶を、芸術として現代によみがえらせた瞬間です▼ふれると、体中が引っかき回されるような気がしたそうです。「(体内に)力があふれ、吹きおこるのを覚えたのです。たんに日本、そして民族にたいしてだけでなく、もっと根源的な、人間にたいする感動と信頼感、したしみさえひしひしと感じとる思いでした」(「縄文土器―民族の生命力」)▼滋賀県東近江市で、最古とみられる土偶がみつかりました。縄文初め、1万3千年前の作らしい。豊かな胸。ややくびれ、どっしりとした腰。頭と手足のない胴体像がかえって、命のしるしである女性の体にみなぎる生命力を感じさせます▼縄文人は、きびしい自然の中で命の危険を冒しながら暮らしていたでしょう。岡本太郎も、原っぱに突き立つ「太陽の塔」で、時空を超えた生命そのものの尊さやたくましさを、たたえたのかもしれません。